雨の朝霧JAM! | 加藤登紀子オフィシャルブログ「Tokiko Kiss」Powered by Ameba

雨の朝霧JAM!

●5年ぶりの雨

 新富士の駅に降りると、あいにくのお天気。今にも降り出しそうな雨雲がゆっくりと近づいてくる。富士西麓の朝霧高原で毎年行われる人気の野外フェス「朝霧JAM」。登紀子さんは二番目の出演だけど、果たしてそれまでに晴れてくれるだろうか?

高原への道をバスでぐねぐね進むこと1時間半。広い芝生の上に建つ朝霧JAMのステージが見えてきた。キャンプサイトには色とりどりのテントが花を咲かせている。渋滞のため、なかなかバスを降りられずにいると、後ろの座席の女の子たちが窓の外を見ながらファッションチェックを始めた。

「ほら、あの子! 長靴がピンクでかわいいよね」
「あっちの男の子は、カッパが水玉だよ」
「フェスのために買ったんだろうね」
「今年は、山ガールっぽい服の子が多いかも」

 年々、おしゃれになるフェスのファッション。たとえ、雨が降ろうと素敵なカッパと長靴があれば怖いもの無し?!…でもなかった。大粒の雨が降るやいなや、クモの子を散らすようにテントに避難してしまい、やどかりのように、顔だけ出して空を眺めている。

 私もあわてて、ひさしのある小さなカフェに入ると、店員のお兄さんが、「雨は5年ぶりだよ。珍しいなあ」とぼやいている。晴れ女の登紀子さん、まだ来ないのかしら?

●登紀子さんやってくる

 ますます雨が激しくなる朝霧高原に登紀子さんが姿を現したのは、お昼過ぎ。

「よく来たね!何? 遅いって? ははは。こんなに雨じゃ、酒がないと!酒!酒飲むか!」  

 だめだめ。酒は後でね。それよりも、早く着替えないと。「む、それもそうね」と、黒のサテンのドレスに白いもじゃもじゃのストールをかけて、とんがりブーツで再登場。

「どう?今日の衣装、強そうでしょ? さ、メイクしなきゃ」

 一組目の「COOL WISE MAN」さんの演奏が始まったらしく、楽屋にも聞こえてくる。すると、どこからか「うおうおうお~!」。ぎょっ! 何が吠えているのかと思ったら、メイク中の登紀子さん! 気合充分のようだ。

●雨のなかのライブ

 土砂降りの朝霧JAM。これから登紀子さんのライブが始まろうというのに、会場は人もまばら。なんだか色とりどりのかわいいテントも避難テントに思えてくる。

 が、雨を吹き飛ばすような威勢のいい前奏が始まり、いよいよ登紀子さんが登場! とんがりブーツを踏み鳴らし、「Rising」を歌い始めるとテントにもぐっていたヤドカリ君たちがぞろぞろと這い出してきた。

「♪雨が降り~ 天と大地の間に~」  

 晴れよりも激しい雨が似合う曲ではないか。続いて「Seeds in the fields」。雨なくしては芽を出さない。雨降りライブも、自然の営みだと思えば気持ちは軽くなる…かもしれない。

「みんなー! どう元気? 素晴らしい天気だよね。ははは。私の力で晴れにしたいけれど…。さあ、テントから出ておいで!!」

 その一言で、残りのやどかり君たちも、いそいそとカッパを着こんで集まってくる。

「嬉しいよー!最高ー! 良い顔!! この嵐、いいよねー。雨の中でも元気! I am proud of you! みんなが誇りです」
「おおおお!」

 前列の男の子たちがピョンピョン跳ねて喜んでいる。3曲目、「さくらんぼの実る頃」の前奏が流れたとたん、「ぎゃああああ!」と大歓声。20,30代の「紅の豚」世代には思い入れたっぷりの曲なのだ。さらに「時には昔の話を」で大興奮のみなさん、まだまだこれからですよ。



●ジョンも登場?

 もう雨なんて気にしない。もっと降れ! 熱気に溢れた会場に流れるのは、「Imagine」。途中から日本語訳を朗読し始めた登紀子さんに代わって歌声を響かせるのは、ギターの中野督夫さん。肩までかかる長い髪を揺らし、スポットライトを浴びれば、あれ?ちょっと誰かに似てない?

「中野督夫!! ちょっとジョンに似ているわよね! 知ってる? 今日はジョンの誕生日なんです。ジョンは70歳よ ♪ハッピーバースディ~ ジョーン~」

 意外な展開だけど、若者もつられて一緒に歌いだす。だんだん、ただのライブではなくなってきた。

「そして、もうひとつ。チェ・ゲバラが死んだ日です。生きることは死ぬことです。いつかみんな死ぬのよ。でも輝いて生きた人は、死んでも輝き続ける。ややこしいことに落ち込まないで。自分を輝かせるのは、自分だけです。誰がなんと言おうと、堂々と生きようぜー!」
「いえーーーい!」

 朝霧のステージから想いは世界に広がっていく。
ジョンが暮らしたニューヨーク、そしてゲバラが愛した南米へ。

「ゲバラはね、銃殺されたけれど、最後に微笑んでいるんですよ。死んでも、自分が持っていたビジョンは必ず未来を開くと信じている。ゲバラの夢は、着々と私たちの中に生きているの。…学生たちが戦争に反対した年がありました。それが1968年です。私の『1968』、聞いてください」

 真っ赤なライトに染められ、舞台も登紀子さんもめらめら燃える。次の曲、「Power to the People」では、スカートを足で蹴り上げてこぶしを振り上げて歌う勇ましき登紀子さんに若者たち、熱狂。ますますぴょんぴょん跳ねている。

「ありがとう!! 素晴らしかったよー!! いろんな意味でおもしろい時代に生きていると思うよ。めっちゃくちゃな時代に生きているのよ。でも、揺れている時代はチャンス握っているんです。みんな、チャンス握ってる?」
「イ、イエーイ!」
「握ろうよおおー!」
「イエーイ!!」



●レボリューションとは回転すること

 雨はまだ止まない。でも、目の前でおもしろい化学反応が起きている。登紀子さんは語りかける。

「本当に地球は新しい時代に入っているの。レボルーションというのは回転するってことなのよ。ぐるっとまわっているのよ。輪っかの上に私たちは乗っているのよ!」

 ♪生きていることは愛することだと 本当は分かっているのに~  

「revolution」の歌詞に耳を傾ける。これこそが今日、若者に伝えたいメッセージなのだろう。心にビシッと響いてくる。

「ごめんねー! 最後まで雨で! でも、本当にまた、みんなに会えるかな? 新宿ゴールデン街とか…」
「わっはっは!」
「…渋谷とか長野とか…え?鴨川? そうね、いいね!」
「イエーイ!」
「生きることは愛することだよ。生きることは抱きしめることだよ。生きることは雨に濡れることだ! 生きることはそれを体の体温で乾かすことだ!」

体温を奪う雨に、ぶるぶると震えながらも、まっすぐ聞いてくれた若者たちに、最後の曲「君が生まれたあの日」を贈る。鳴り止まない拍手に大きく手を振って応えながら、心を込めたラストメッセージ。

「みんなが幸せになってくれること! それを心から祈っています! グッドラック!」

文:白石あづさ