或る少年の山中奇譚より | 雑踏水族館 -Crowd Aquarium-

雑踏水族館 -Crowd Aquarium-

日々の出来事や創作物を展開しています
是非、覗いていってください

昔々のことでした

少年が一人、山中を歩いておりました


隠れん坊でもなさっていたのでしょう

隠れ場所を求めて、このような所まで来てしまったのです


いつしか山中深くに入ってしまった少年

これは大変なことです

これでは帰り路が分からなくなってしまうではありませんか


嗚呼、更に運の悪いことに霧がかかってしまいました

これでは下手に歩くほうがかえって危険です

断崖絶壁にでも行ってしまってはそれこそ大変

流石に怖くなった少年は立ち止まり、そこにしゃがみ込み、震えておりました




霧は薄くなるどころか濃くなる一方

少年は一歩も動けません


その時でした


何処からか泣き声が聞こえてくるのです

少年は驚き戸惑いましたが、声のする方へ行ってみることにしました


すると、一人の小さい男の子が泣いているではありませんか

きっと転んだのでしょう

男の子の膝からは血が出ているのです



少年は自らの着物を少し毟り取り、男の子に巻きつけて差し上げました

そして一言、大丈夫と声をかけると、男の子は次第に泣き止みました


男の子の齢は少年の弐つ程下でしょうか

きっとこの子も遊び事をしているうちに、ここまできてしまったのでしょう


男の子は少年に問いかけます

お兄ちゃんは何処から来たの、と

少年は答えます

多分あっちかな、と

このようにキリがかかっていたのでは何処から来たのかを知る術がありません



少年は段々と眠くなってきました

男の子は言います

お兄ちゃん眠いの?霧が晴れたらお越してあげるから寝てていいよ、と

少年はその言葉に導かれるように眠りにつきました



そして、僅かに時は過ぎました



お兄ちゃん、お兄ちゃんと、少年を起こす声が聞こえてきます

次第にあの男の子の声から、また違った聞き覚えのある声に変わっていきました


その違った声というのは、少年の弟のものだったのです

少年が目を開けると、そこは自分の家でした



話を聞くと、少年は漆もの間、行方知れずだったというではありませんか

村中で山を探し回っても見つからなかったのに、ある日山中で村の男たちが倒れている少年を見つけ、そしてこの家に連れてきた、と


少年はもう一人小さい男の子が居なかったかと尋ねると、そのような子は居なかった、とのこと


あの日のことは全て夢の中の出来事だったのかと思われましたが、少年の弟は問います



何故着物の端が破れているのか、と



果てさて、あの男の子は一体誰だったのでしょう

霧がかった山中は、本当に山の中だったのでしょうか


しかし、私は思います

あの男の子もまた、遊びたかったのだと



さあさあ、本日の奇譚はここまで

それではまた何時か、御会い致しましょう