探しモノはキミの中に | 雑踏水族館 -Crowd Aquarium-

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“探し物はなあに?”


後ろから誰かが僕に声をかける

ボクは草むらから顔を出し、少し泥で汚れた顔を晒す

何を探しているのか、ボクはその問いに答えられなかった


どう言えばいいのか困っていると、キミは笑った


“鼻のところ、泥ついてるよ”

そう言われ、少し恥ずかしくなったボクは手で泥を拭う

けれど、手が泥まみれだったから、鼻にはもっと泥がついた


キミはさらに笑った

“そんなに必死に何を探しているの?”


ボクは首を傾げる

ボク自身、何を探しているのかよく分かっていない。

それに、必死に探していたこともキミに聞かされて初めて分かった。


とにかくボクは何かを探さないといけない、そんな気がする

焦っているんだ

それだけ大切なものなのに、それが何か分からない



“僕も一緒に探そうか”

何か分からないのに、どうやって探すのかと尋ねた


“キミだって、ずっと当てもなく探していたじゃないか”

それは、そうだけど


キミはそう言うと、反対側の草むらをあさり始めた

ボクももう一度草むらに入る


その時、キミは言った


“ねえ、それは草むらの中にあるものなの?”


確かに

これだけ探してないってことは、ここじゃないのかも


“そんなに焦って探すものなの?”


そういえば

ボクは何で必死だったんだろう


“今年で、十歳だったよね”


うん

ボクは今年で十歳だ


“じゃあ大丈夫、ゆっくり探せばいいよ”


そうかな

なら、信じてみようかな


ところで、キミは誰なんだい


“僕はね、キミの探していたものだよ”


キミが、ボクの探しもの


ああ、そうだった

キミがボクの探しものだったんだ


やっと見つけたよ、僕


けれど、僕はまだボクとあまり変わらないんだね


“なら、探せばいいよ、今度はゆっくりね”


そうだね

ゆっくり、僕を探しに行こう