二人の武将が博多湾を眺めていた。大きな静かな内海である。内海の真ん中に大きな島が見え、左右に岬が見える。一人は北条実政。もう一人はやや年上か?季節は春のようだ。

実政
「武藤殿 次回、蒙古が襲来した時、そなたに総大将を命ずるとの執権殿のお言葉じゃ」

武藤
「喜んでお受けいたします。それにしても実政殿の策はこれまでの源平以来の古き合戦の方法を覆す実に現実的で合理的な策。勝てますぞ」

実政
「あの岬の先の海は激しき波。こちらの重要拠点を攻め入るために蒙古軍は必ずここより進入する。前回のように一部が裏をかく危険性もあるゆえ、そなたの郎党の水軍に湾の奥は黄金の都という情報を流させる。決戦はやはりこの地がよい」

武藤
「水軍は着実に情報を蒙古軍に流しております。ご安心くだされ。襲来時にこちらの密偵が忍び込み毒を盛る策をも確実に実行されることでありましょう。実政殿と執権殿は民のためには鬼にもなられますなあ」


実政
「石砦は敵の密偵や降伏を迫りにくるやからに見られてはならぬゆえ、湾岸の見張りを終日怠らなきよう御願いいたす。我国に交渉に来る敵方はこの湾岸以外からは上げてもよいが、京に連れていっても切捨てじゃ。この湾岸からの無断上陸者は全て切って捨てよ。長門にも石築地を作る」
この後、蒙古人杜 世忠などの使者が切られるのである。一行は下関から上陸し、大宰府に送られ、その後、鎌倉で断首となる。

辞世の句は有名である「出門妻子贈寒衣 問我西行幾日帰 来時儻佩黄金印 莫見蘇秦不下機」は、栄達を果たして家族のもとに帰る望みを果たせなかった無念 


武藤
「春から石築地を早急にお作りいたします。地頭も民も肝を食われたくないゆえ必死で石を積み上げることでございましょう。されど、今、高麗では山の木がなくなるほどの伐採を行い、二回目の襲来の準備をはじめたそうでござる。水軍の密偵は高麗にも順調にもぐりこんでおるゆえ、高麗の反蒙古を裏切らせ、襲来船の手抜き工事を策するように命じておりますゆえ」

実政
「それがしはただ今より鎌倉に戻る。夏には帰ってくるので準備怠りなきようお願い申しあげる」