11月13日、詩人の谷川俊太郎が亡くなりました。
いま、詩が私たちの生活から遠ざかっているように思うので、
元国語教師としては、紹介せずにいられません。
朝のリレー 谷川俊太郎
カムチャッカの若者が
きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は
柱頭を染める朝陽にウインクする
この地球で
いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交換で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ
死んだ男の残したものは 谷川俊太郎
死んだ男の残したものは
ひとりの妻とひとりの子ども
他には何も残さなかった
墓石ひとつ残さなかった
死んだ女の残したものは
しおれた花とひとりの子ども
他には何も残さなかった
着もの一枚残さなかった
死んだ子どもの残したものは
ねじれた脚と乾いた涙
他には何も残さなかった
思い出ひとつ残さなかった
死んだ兵士の残したものは
こわれた銃とゆがんだ地球
他には何も残せなかった
平和ひとつ残せなかった
(以下略)
大洗町立南小学校校歌 谷川俊太郎
知らないこと分からないこと
ひとつずつ問いかけて
答えを探す
大洗の海は世界へと開いている
心の水平線を超えて
動かそう今日を明日へと
困ったこと悩んでること
友だちと分かち合い
答えを探す
大洗の空は宇宙へと開いている
体はしなやかにたくましく
夢見よう美しい地球
どっか 谷川俊太郎
ここにいるのあきたよ
どっかいきたいよ
みちにこおりがはっててね
わるものがマフラーしてるところ
わるものはね
ひかるネクタイしめている
でもね すべってころぶこともある
わるものになるには
たかいはしごにのぼれなきゃだめ
えいごもできなきゃだめ
たぶんねこもすこしけっとばす
ぼくはいっぺんわるものになる
そのあとでいいひとになる
はる 谷川俊太郎
はなをこえて
しろいくもが
くもをこえて
ふかいそらが
はなをこえ
くもをこえ
そらをこえ
わたしはいつまでものぼってゆける
はるのひととき
わたしはかみさまと
しずかなはなしをした
同志社小学校校歌(の一節) 谷川俊太郎
えらいひとになるよりも
よいにんげんになりたいな
ほかにも「生きる」「信じる」などすてきな詩がたくさん。
心の豊かさは詩から。
高校(進学校)の授業では韻文はわりと避けられます。
なぜか。
入試に出ないから。
文学が急速に滅びていくのは、授業で重視しないから。
小説の人気がないのは、才能のある作り手はみんなコミックのほうへ行ってしまうから。
たぶん。