前回末尾に書いたが、壊すことの上手さはイノベーションに直結する。そしてそれが今の日本で一番上手いのが大阪だろう … なお以前にも書いたように、この「壊す」こと自体を殆どやる必要がない日本唯一の特殊な地域として「沖縄県」があるのだが、それは今回の本題ではないのでここでは詳しくは書き進めない。


大阪の話題に戻すと、今の大阪は経済状況が良いこともあって、スタートアップ関連イベントが盛況だったりしているようだ。そしてこの大阪のスタートアップというのは、昨今伝え聞く東京スタートアップの摩訶不思議さとか一部地方自治体の謎めいたスタートアップ支援なる施策とは全く別物だ。

何が別物なのかと言われそうだが、大阪発のスタートアップはそれらとは違って何らかのイノベーションを起こすために起業するのだ … というかそれが本来の普通の姿で、以前の記事で書いたような東京や一部自治体での有り様こそが異常なのだ。

既に書いたように、今の東京におけるスタートアップというのは、はっきり言ってイノベーションとは無縁だ。明らかに行き詰まった JTC 的な体制の矛盾をリスキーな新組織でもって引き受けて、JTC 本体に傷がつかないようにしているだけだ。その目的はと言えば今の日本的な諸々の延命でしかなく、良くてせいぜいが軟着陸だ … これはもう書いてるだけでげんなりしてくる程の「志の低さ」で、それでいて当事者たちが切実で必死なのは僕もサラリーマン経験者なのでほぼ想像出来てしまうのが悲しいところだ(苦笑)。

繰り返しになるが、大阪発のスタートアップはあくまでも何らかのイノベーションを起こすために起業している。もちろんこれが本来の形で、昨今の東京スタートアップみたいに「JTC(特に大手の SIer 関連)の尻拭いばっかり」「起業者の主な狙いは多少業績が上がった後の Exit」なんてのが、そもそもおかしいのだ。

ただこうなってしまうのも無理もないところはあって、実のところ東京のスタートアップ界隈ではちょっと上手くいったら JTC がとんでもない値段で買い上げてしまうのだ。これも一見すると変な話に見えるが、実はある意味で理にかなっていて、要は新しい事など何一つ出来ない JTC にとっては東京発のスタートアップは物凄く有難い存在なのだ。だからこそ、とんでもない金が出てくる。そんなのは本当ならば JTC が潰れたらいいだけなのだが、当然 JTC だって滅びたくないので凄い金を出して生き残りをはかる … 何とも馬鹿げた話だが、いずれにせよ東京ではこんな状況なので、新興の大企業なんかどうにも生まれようがない。東京はある意味では起業ネタ(というか「炎上ネタ」)には事欠かないので起業自体には向いているのだが、イノベーションには全く向いていない。それが東京の実情で、もちろんそれは JTC まみれのダメダメ環境のせいなのだ。


これも以前に書いたが、ヴェンチャー精神と国や地方自治体からの補助金とは基本的に相容れないはずだが、日本的起業の実態はと言えば見事に補助金まみれだ。東京や一部自治体のスタートアップというのは、何のことはない単なる補助金ビジネスなのだ … まあ日本的といえば実に日本的ではある(苦笑)。

この手の「官公庁の一部門が経営するスタートアップ支援施設」というのは猛烈に謎めいているのだが、要するに現行の所謂サラリーマン的システムが明らかに維持出来ていないので、何とかソフトランディングをはかっているだけだ。これは20年くらい前に流行った「社内ヴェンチャー」という謎概念と同相のもので、この「チャーハンライス」のような何とも不思議なワードは、もちろん JTC 内部でやる気のない社員にほんの少しでもリスクを取ってもらうために苦し紛れに捻り出した「情報戦」でしかない。スタートアップ補助金というのも、金は出すので頼むからリスクを取ってくれという話で、本当はそもそもサボることしか考えてないような人間を誰も相手にしなきゃいいだけだし、古びた事業もやめてしまえばいいだけなのだが、所謂「日本的雇用」システムにおいてはそれは厳格に【タブー】なのだ。


結局のところ、この現代日本における異様なまでのイノベーション忌避は、とにかく「叩かれる事を避ける」事を最優先にしているからだろうと思う。特に大手の体力があるところが軒並みそうだ。それはリスク回避型人材を内部に大量に抱えているからだろうが。

そんな事もあって、政治行政が叩かれることを厭わない大阪(←実際にはなかなか大変だとは思うが)においては、続々と価値の高いイノベーションが起きている … というか、2023年にもなればG7国日本の巨大都市の大阪であればその程度のことは普通に出来るでしょ?というレベルの事が、さすがに普通に進んでいるという感じだ。

「普通に進む」とは言ってみたものの、政治や報道の世界ではライドシェアにせよ空飛ぶクルマにせよ訳の分からない勢力にボロクソに叩かれたり凄まじいネガティブキャンペーンにさらされているのは事実なのだが、その手の「言葉の世界」ではない普通の生活者の見ている世界ではこれらイノベーションへの印象は全く違っていて、ある意味で「まあそれくらい出来るよね」的な反応なのだ。民間企業だってそんな政治や報道のような妙な世界とは違って落ち着いたもので、例えば空飛ぶクルマに関してはスカイドライブ社という新興の会社がかなり以前に車のスズキと組んでいて、その頃と言えば大手メディアでは「空飛ぶクルマの量産なんて無理だ」みたいに随分叩かれていたのだが、実際は普通に空飛ぶクルマ量産体制の整備に向かっていた。そしてごく最近のニュースだとやっぱり量産に向けてスズキが動くらしい(笑)… まあそりゃそうだろという程度の話で、結局この程度のことは日本の地力であればやりゃあ出来る。単にやるかやらないかだけの話だ。しかもこの話はスズキのインドにおける EV 用施設での生産も検討に入っていて、当たり前ながらスズキも慈善事業をやってるのではなくて、普通のビジネスがごく当たり前にしっかりと回っているのだ。

結局のところ、反維新やら反大阪のプロパガンダやら「情報戦」なんてのは、こんな程度のへなちょこなのだ。そして、そもそも今の大阪で起きているのは「素晴らしい大阪発のイノベーション!」というよりは見たまんまの日本の地力から言えば「普通出来るやろ」レベルの事でしかない。この程度のことが、他地域において、特に東京において出来なかったり、やろうとしても凄まじいバッシングにさらされてポシャる事の方が、明らかにおかしいのだ。


ここまで長らく書いてきたことは、日々様々なイノベーションが生まれる大阪は、別に「素晴らしい」のではなくて単に「普通」だと言うことだ(なお既に書いたように沖縄は「特殊」だ)。はっきり言って、単に普通の大阪が殊更に驚かれたり場合によっては叩かれたりする方がおかしいのだ。

では、その大阪を躍起になって叩く人が物凄い数で居るらしい東京とは一体何だろう?これは僕に言わせれば「病気」で、そしてその病名は精神の方の病に極めて近い。

そしてその東京の異常さを生む根幹は、東京こそが抱えた「ジレンマ」だと思う … ジレンマとは「板挟み」とか「葛藤」を意味する嫌な言葉だが、先程からの話題に関して言うと、東京を包む憂鬱さや嫌な空気の大半は有名な「イノベーションのジレンマ」で説明出来ると思う。


今回はここで終わる。次回はこの東京が抱えた「ジレンマ」というか「イノベーションのジレンマ」について書いていく。そしてこの話はきっと全ての日本人が幸せになるための処方箋になり得る話だと思っている。