メガネがほら、あれだ
親愛なる又八 大先生
眼鏡を落としてしまいました。胸ポケットに入れておったのです。あれほど、胸ポケットは落ちる、とご助言を頂いたにも関わらず、わたしは胸ポケットにインしてしまいました。
あれは雨の日の夜でした。車の運転時には、遠近感がやや狂うので、いつもメガネは外しております。その際、少しの時間ですから、胸ポケットにインするのです。
さらに、そのとき車の中には傘がありませんでした。わたしはミスターマック◯に行く用事がありました。そこでわずかな距離を傘をささずに走っていくことにしたのです。
それが誤りでした。今となってはもうどうすることもできません。時間というのは、矢のように、まっすぐ前だけに進みます。後戻りはできません。
わたしは濡れないよう、車から降りると持ちうる限りのパワーで走り出しました。
胸には…そう…メガネです。
カラカラ!
乾いた音が雨の夜空に響きわたりました。
メガネが雨のコンクリートに打ち付けられた音、今でも耳にこびりついています。フライパンの焦げのように…。
しかし、それでもさすがに強化ガラスでございました。あれだけの衝撃にも関わらず、ガラスの部分にはわずかなキズしかついておりませんでした。
予めこのことを予期していた又八大先生の慧眼に尊敬の念を抱き、またそのお心遣いに感謝致しました。
ただ、やはりキズはキズ。忘れていれば全く問題ないのですが、ふと意識がキズの方にいくと、チラッチラッと光り、私の目にシグナルを送ってきます。送ってきます…送ってきます…。
大変長いお手紙となってしまいました。申し上げたいことは以上です。近頃また寒が戻ってきたようです、ご自愛ください。では失礼いたします。
from 一文無し