やぁ。トガシスト。
秋になって
人恋しくなったら
いつでも電話しな。
9月は楽しかった?
俺は初めて『フェス』ってやつに行ってきたよ。
俺はもうとにかく不安だった。
どうやって音楽にのるんだ。
恥ずかしがったりしたらださいよなー。
なに着てこうか。
初めての経験はいつだって不安と期待が表裏一体。少しのワクワクを背負ってフェスに向かった。
場所は川崎の『BAY CAMP』
後輩のTOYの菊ちゃんが誘ってくれて
菊ちゃん、菊ちゃんの友達の子、愛ちゃんの順平、チュランペットのとしぱんち、ツヨシのノディ、陣野くん。
のメンバーで参戦。
大所帯。
会場のステージは4ヶ所あって。
メインのステージが2ヶ所、少し小さめのステージが2ヶ所。
それぞれのステージにタイムスケジュールが組まれていて気になっているバンドの時間になるとそこに移動する。そんな感じだった。
フェス自体はお昼からやっていたのだけど俺は用事が終わって17時から合流する形になった。
川崎駅からシャトルバスに乗って会場に着くと順平が入り口まで迎えに来てくれていた。
「富樫さん。いま『Rei』っていう女性アーティストがやってるとこなんですけどパワフルでめちゃくちゃカッコイイんですよ」
いつもはローなテンションで顔色悪めの順平がイキイキと顔色良さげに言う。
これがフェス。。
様々なステージから聞こえる音に早速まみれながら、メインよりは少し小さめのステージに向かった。
そこにいた『Rei』は順平に聞いた通りで小柄な体でとてもパワフルな歌を歌う女性だった。
ギターをかき鳴らす姿に気づいたら体が縦に揺れていた。
フェスめ。俺の体をすぐに動かしてきやがった。
すごい。音がズシズシ体に響く。
これが生の迫力。
順平が隣で囁く。
「富樫さん。音楽ってね、心臓で聞くんですよ。」
かましてくるじゃん。
いいじゃんいいじゃん。みんなゾーン入っちゃって。最高だぜ。
その後、いろんなステージでいろんなバンド見て
すっかりフェス仕様の体に仕上がった。
ちょっと休もうかと草原でご飯を食べた。
音も。風も。会話も。川崎の工場の夜景も。お尻に程よく刺さる芝生の感じも。
全部が最高。最高の夕方。
誘ってくれてありがとう菊ちゃん。これがフェスなんだな。
それからみんなで21時のサンボマスターを見ようと話し、それまでは各々が見たいバンドの場所に散らばる形になった。
20時過ぎ。雨が降ってきた。
でも大丈夫。
天気予報を見ていた俺は雨具を百均で買ってきていた。
我ながらぬかりがない。
ドヤ顔で着る。
まさかの半袖。
半袖の雨具。
共に行動していた菊ちゃんが言う。
「富樫さん!なんで半袖なんですか!」
としぱんちも言う。
「半袖じゃないですか!」
そんな言われても仕方ない。半袖ですなんて表記はなかった。
優しい菊ちゃんが言う。
「私ポンチョ持ってるんでこれ上から着てください!」
優しい。
なにからなにまでありがとう菊ちゃん。
オシャレな袋に入った紫色のポンチョ。
心の中でこのポンチョの名を俺は愛と名付けた。
大きめで良さそうだ。
着てみる。
あれ?雨具っていつから半袖がベースになったんだ?
まぁでも大丈夫。腕が濡れようがいいや。菊ちゃんに感謝を伝えようとふと見ると
「ガハハハハ!!もうゴミ袋じゃないすか!!!ガハハハハ!!!」
爆笑する菊ちゃん。
でももうなんだっていい。
強くなる雨。雨を凌ぐ事が最優先。
雨の中のフェスだって最高。
雨が演出にすら感じた。
サンボマスターが終わると順平とノディが
「僕ら帰りますけどどうします?」と。
オールナイトのフェスで1時から見たいバンドがあった俺はとしぱんちと菊ちゃんたちと残る事を順平に告げて別れた。
そこからさらに強くなる雨。
もう土砂降り。豪雨のレベル。
1時に見たかったフレデリックが始まった。
生で聞くフレデリックは最高だった。
フレデリックが終わるとさらに強くなる雨。
ステージの最中は雨の事を忘れれるものの、ステージが終わると雨が体に響く。
ぬかるむ足元。もう田んぼのようだ。
でもみんなでいれば大丈夫。朝まで楽しく過ごせるはず。
すると菊ちゃんが
「富樫さん!お疲れ様でしたー!帰りまーす!」
?!?!?!
「え?」
「ミッドナイトバス予約したんでそれで帰りまーす!楽しかったです!では!」
ミッドナイトバス?!?!
あー、言ってた!
菊ちゃんが前々から
「別料金でミッドナイトバスで帰れますけどどうします?」って!
俺、断ったんだ。ケチだから。
夜中2時。
残された俺ととしぱんち。
雨が服に染みる。寒さが襲う。
「どうする?とし」
「どうしましょうか。」
この雨の中朝までどう過ごすか。そんな事を考えていると雨が止んだ。
やった。よかった。
俺はトイレにいって着替えて半袖の雨具とポンチョを捨てた。
「晴れたな!とし!」
「きましたね!」
表情も晴れる。
それから20分後かな。
土砂降り。
マズイ。捨ててしまった。
いや!俺のバッグに予備の半袖の雨具がある!
よかった。もうこの時には半袖であることなんてどうだってよくなっていた。
それからというものとにかく雨に打たれながら時間を過ごし朝5時の川崎駅行きのシャトルバスを待った。4時過ぎになり
「とし、そろそろシャトルバスのほういっとこか。」
「ですね。」
シャトルバス乗り場に向かった自分たちの前に広がっていたのは目を疑うほどのシャトルバスの行列。
「とし、、」
「富樫さん、、」
あの最高だった夕方が走馬灯のように駆け巡る。
そこから1時間半くらいだろうか。
俺たちは雨に打たれ眠気と寒さに耐えながら立ち続けた。
「とし、大丈夫か。」
「大丈夫です。」
「家帰ったら熱々のシャワー浴びるぞ」
「そうですね。熱々のラーメンもぶっ込みましょう。」
とにかく励ましあった。
熱々のラーメンはあんまりよくわかんなかったけど。
バスまであと少し。
「とし、バスの中暖房かな。」
「どうすかね。」
暖房である事を願いながら乗り込んだ。
キンキンの冷房だった。
俺はまだしもとしぱんちの着ているシャツはビショビショだ。
「寒いな。」
「寒いっすね。」
「でも屋根あるな。」
「ありますね。」
「帰ったら泣きながら熱々の風呂入るぞ。」
「はい。熱々のラーメンもぶっ込みましょう。」
としはまた俺にとくにハマってない『熱々のラーメンをぶっこむ』というワードを投げかけてきてそれだけは気になったけどそれ以外の部分では感情を共有できていた。
確実に絆は深まっていたと、そう思っている。
俺は初めてのフェスで
生で音楽を聞く感動。
夕暮れどきの高揚感。
フェスでは雨すら演出になるということ。
雨具は半袖でもわりかしいけるということ。
屋根がある喜び。
空調がある幸せ。
お風呂に普通に入れる日常への感謝。
ぬかるんでないところを歩ける嬉しさ。
を学んだ。
かなり学びとしては深かったと思う。
それから川崎駅についた俺ととしぱんちはバスを降りて駅まで歩きながら
「あと少しだ」
「あと少しですね」
そこからはお互い疲れていたのか無言で歩いた。
そして駅が目の前まで来た時
としぱんちが久しぶりに口を開いた。
「熱々のラーメンをぶっ込みたいすね。」
陣野君が後半どうなったか気になってるよね?!
陣野君は朝まで一人で行動してたみたい!!
一番のタフガイは陣野君で決定!!!
ここで告知ドカンだ!!!!
どこだっていい!!
どこでだって!!!
君を待つ!!!!