寒さも弱まり少し緑色に木々も色づいてきた。スーパーや百貨店では、「新生活スタート」「新入生の皆さん、おめでとうございます!」「からだすこやか茶ダブル〜〜」と新しい季節の始まりを感じさせるポスターが所狭しと飾られている。昔は卒業、入学といえば桜のイメージがあったが今は温暖化の影響か、桜が咲くのは一学期が始まる頃だ。僕の名前は浦名翔平(うらな しょうへい)この春から高校生だ。地元とは少し離れた高校に通うことが待ち遠しくてたまらない。友達は出来るだろうか、人生初めての彼女が出来るのだろうか。そんなことを考えていたのだが、まさか入学して忘れもしない出来事が起こる事を、この時は知る由もなかった。


無事に入学式も終わり、待ちに待った高校生活がスタートした。中学の頃にちんちんがでかいという理由で友達に無理矢理サッカー部に誘われた。最初は乗り気ではなかったが、ちんちんがでかいという理由で中学総体の選抜メンバーにも選ばれ、今ではこのちんちんに感謝している。学校の廊下を歩いていると「新入生の皆さん!サッカー部に入りましょう!目指せ!高校総体!」こんな張り紙が貼られていた。サッカー部の部室に行き入部届けを渡しに行くと、おそらくキャプテンであろう生徒が僕に向かって「ちんちんでか!」と呟いていたので、おもむろに股の間にコンクリートを塗ってやった。


5月に入り少し高校生活にも慣れてきた。今日から部活の仮入部期間が始まる。僕は中学選抜に選ばれた男だ、自信と自信と自信、さらには自信に満ち溢れ、興奮状態で、愛液を垂らしながらグランドに向かった。おそらく3年生だろうか、練習前のフリーキックで体を温めている。新2年生は初めての後輩が出来る、さして上手くもない生徒がでかい顔をして仕切っていた。マネージャーは選手の洗濯したユニホームを一枚一枚丁寧に干している。癖なのか、全て裏返しで干しているがそんな健気なマネージャーの姿に気持ちが和らいだ。僕はグランドの片隅で暇つぶしがてらサッカーボールの白の部分をマッキー黒く塗り潰して名前を呼ばれるのを待っていた。すると、同じ1年生のゼッケンをつけた生徒が俺に向かって「マッキー派?僕はポスカ派かな」こう質問してきたのだ。名前もなのらず突如現れたくせに、なんて失礼な質問をするのだろう。僕は怒りを覚えた。右人差し指をそいつの眼球にぶちこみながら「僕はポスカよりもホワイトアスパラガスの卵とじの方が好きだよ」と答えてやった。名前は?と聞くと「初めまして、脇ノ下 亜斗夢(わきのした あとむ)です。」なんて普通の名前なんだ、トリニダード・トバゴには50000人はいるだろ!と動揺を隠せなかったが、平然と彼に笑顔を振りまいた。


高校生活から早1年が経った、今日は4月3日、僕の誕生日だ。周りの同級生の誰よりも早く僕は誕生日を迎える。17歳の誕生日、母親が盛大にお祝いをしてくれた。僕の大好きな七味のお浸し、牛肉の味噌汁煮、そして冷奴に17本のロウソクを立てて家族が祝ってくれた。母親が「来年は18歳ね!楽しみだわ。翔平がこれほど成長するとはね。早く来年が来ないかしら、早くお父さん!来年のロウソク!特注で予約しておいてね!」なんのことだかわからなかったが、母親がすごく喜んでいる。僕も嬉しくなった。ことわざで言うと「エアコンの独り立ち」状態である。あれから脇ノ下君とは随分仲良くなった。毎朝僕が彼の机にチーズケーキを入れたり、下駄箱に愛液のついたティッシュをいれていたずらしても、彼は笑いながら僕の陰毛をブラジリアンワックスで削ぎ取るくらい仲が良い。明日はどんないたずらをしようかな。毎晩寝る前に考える。よし、明日は彼の家に忍び込み、枕元にエリンギを置いてやろう!興奮冷めやらぬ中、愛液を垂らして眠りについた。


毎日毎日照りつける太陽と梅雨明けの蒸し蒸し蒸し蒸し蒸し蒸しした暑さで茶碗蒸しが出来るくらいの日が続いていた。脇ノ下君が、おはよう!と納豆臭い体で近づいてきた。おそらく昨日彼の家に忍び込み、家にあった全てのバスタオルを納豆に漬け込んだせいだろう。いたずらをされても怒らない彼が愛くるしくてたまらない。部活も終わり脇ノ下君と一緒に帰宅していた。「来週の日曜日、部活休みだったよな?一緒にプールでもいかないか?」あまり泳ぐのが得意ではないのだが、脇ノ下君からのお誘いは初めてだったので、断るわけにもいかなかった。時間を約束して最寄りの駅で待ち合わせをすることになった。鉄腕アトムの主題歌を彼は嬉しそうに歌っている。そんな彼をみて僕も嬉しくなった。ことわざで言うところの「猫と猫のから騒ぎ」だった。


約束の日。僕は興奮のあまり待ち合わせ場所に約束の7時間前に着いてしまった、色鉛筆の舞で自分のHPを回復しながら待っていると脇ノ下君が上半身ズル剥けでやって来た。そうか、昨日彼の家に忍び込み、布団をカミソリに変えておいたせいか。僕は妙に納得しプールへと向かった。日曜日だからか周りは家族連れとカップルで大賑わいだ。「流れないプールに行こうよ!流れないプールに!」と彼は興奮していた。なぜわざわざプールを流れないプールと言うのだろう、そもそもプールは流れない。流れるプールだがら流れるプールなのに、、と気持ち悪いストレスで一杯になったが、彼の無邪気な笑顔について行くしかなかった。もちろん流れるプールの方が人もたくさんいるため、脇ノ下君が言う「流れないプール」には二人きりだ、これなら市民プールでもよかったのに、そう思ったが彼は楽しそうに泳いでいる。悔しいことに以外と上手い。クロールから平泳ぎ、背泳ぎにバタフライ、さらには潜水艦のモノマネをしながら泳いでいる。あっぱれだ。彼の泳ぎに見惚れていたその時だった。衝撃という言葉が正しいだろう。僕は目を疑った、32度見をし彼の脇を凝視すると、間違いない。くっきりとわかった。彼の右脇ノ下に鉄腕アトムのタトゥーが彫られていたのだ。脇ノ下亜斗夢君の右脇ノ下にアトムが描かれている。僕は頭が真っ白になった。そこから何も記憶がないまま、目が覚めると自分の家に帰っていた。


それから1年が経ち、高校3年生として新学期が始まった。わずか2週間という春休みだが、僕は友達に会いたくて仕方がなかった。2週間ぶりの学校に浸りながら、下駄箱で靴を履き替えていると「おはよう!」なんだか嬉しかった、聞き馴染みの声が新たな季節を感じさせてくれた。僕は笑顔で彼の方に振り向くと、なぜだろう、彼は唖然とした表情で僕を見つめている。どうしたの?と質問しても、彼は何も答えない。どこか気まづそうな雰囲気にも見える、結局彼はその日僕に何も喋りかけないまま新学期をスタートさせた。


7月になった。今年の梅雨も長いなぁ、毎年感じることだ。今学期が始まってから脇ノ下君は僕を避けるように生活を送っている。前までは喜んでいたずらに引っかかっていたのに、今は何のリアクションも無く登校している。僕は寂しくなった。高校に入り親友と思っていた彼が僕を避けている。今日も会話をしないまま下校しようとしたその時だった。「な、なあ浦名、、ず、ずっと気になってたんだけどさ、お前ど、どうして、あの、、急に尻出し始めたんだ…?」緊張を隠せていない。2ヶ月ぶりに喋りかけてきたんだ。当然なのか。ことわざで言うならば「乳輪のかかと落とし」に間違いない。そんな彼の言葉に僕はその日自宅へ誘った。


夏休みに入り、とうとう僕達が所属しているサッカー部を引退する最後の大会当日だった。試合は両者一歩も引かず延長戦、決着がつかないままPK戦へともつれ込んだ。4人目のキッカーである僕の番が近づいてきた。今まで共に汗を流し、辛い日も嬉しい時もみんなで分かち合ってきた。その成果が今、僕の右足にかかっている。後ろではチームメイトが肩を組み、浦名!浦名!と応援してくれている。チームの為、みんなの為にもなんとしてでも決めたい。後ろを振り向きチームメイトの声援を感じようとしたその時だった。脇ノ下君が泡を吹いて倒れている。どうしたんだ!僕はそう言って駆け寄ろうとしたが、キッカーは僕。行けるはずがない。周りのチームメイトは脇ノ下君が倒れていることに気がついていない。もともと、僕のいたずらのせいで情緒が不安定だった脇ノ下君。だめだ、集中できない、脇ノ下君が心配だ。血迷った僕はボールの代わりに自分の尻をゴールネットへ突き刺した。


試合は惨敗。僕のせいだ、僕が尻をゴールネットへ突き刺した瞬間、監督、チームメイト、応援に来ていた生徒、相手チーム、さらには審判まで、口が開いたまま塞がらなかった。時が止まったとはこのことかと感じるくらい、スタジアムは静寂に包まれていた。恥ずかしすぎて涙も出ない。脇ノ下君はロッカールームのベンチで横たわり、放心状態だった。多分、僕のプレーを見て泡を吹き、白目をむきながら倒れていたんだ。なんて申し訳ないことをしたんだ。自分を責め続けた。せめてもの償いと、脇ノ下君のユニホームを脱がせ、救急車が来るまで楽な格好にしてやろうとした時だ。再び時が止まった、ロッカールームの換気扇の音でさえ聞こえない。なにか、彼の脇ノ下に違和感を覚えた。なんだこれは?彼の左腕をどかし脇を見てみると、そこには「君の名は」とゴシック体でタトゥーが入っていた。右脇には絵が、左脇には文字が。君の名は。どう言うことだろう。僕の名前に何かおかしなところなど無いはずなのに。そう思い、僕ももう二度と着ることのないユニホームを脱いだ。
学校に帰るとマネージャーが涙ながらに、洗濯したユニホームを干していた。マネージャーも最後の洗濯、一枚一枚丁寧にシワを伸ばしてハンガーにかけている。相変わらず癖は治っていない、全てのユニホームが裏返しだ。少し笑みと愛液がこぼれた。僕のユニホームはあるのかな?と、浦名と書いたユニホームを探していた。あっ、あったあった。
西の空に。裏返しに干された自分のユニホームと、綺麗な夕日が沈んでいった。




「続、青春の1ページ」より

著者
覚野元気