「ミサです。よろしくお願いしまぁす♪」
すらっとした体型のロングヘアーの女の子が横に座った。歳は20代前半ぐらいであろうか。腰のところに刺青が見えたが、それさえも似合う中々の美人だ。このキャバクラにはよく通っているが、初めて見る顔だ。出来たてのトーストにストロベリージャムを塗っている時の気持ちを思い出した。
「はじめまして。見ない顔だけど、最近入ったの?」 
「そうなんですぅ。3日前だっけなぁ?いや、ハンコを押したのは5日前かぁ〜、てへっ。でも、初出勤は昨日だしぃ〜、分かんない〜きゃはっ。」
どっちでもいい、そう言いたかったが、何とかこらえた。その言葉がもう喉のところまできていたので、喉に手を入れて押し込んだ。
「お名前は〜?」
「ヒロシだよ。」
「ヒロシくぅーん、私飲みたいなぁ〜」
中々厚かましい奴だ。茹で上がったパスタをフライパンにうつし、ソースと絡めているときの気持ちを思い出さずにはいられなかった。
「ドンペリピンクで。」
僕は横に置いてあったベンチプレスを持ち上げながら言った。
「ボトルでよろしいですか?」
ボーイの1人が言った。
「バケツで。」
ミサの前にバケツ満タンに入ったドンペリが出てきた。
「こめかみ周辺だけブリーチしたいーー!」
ミサはそう叫ぶと、バケツを手に取り2.26秒で飲み干した。
調子を良くした僕は、
「ピルクルのウォッカ割と、酢酸カーミンをショットで急いで持ってきちゃって!」
と、山村紅葉の似顔絵を書きながら言った。


あれ以来僕は、ミサとたびたび会うようになった。銀座で食事をすることが多かったが、ベトナムのホーチミンのラブホテルにも頻繁に行った。妻と5歳と8歳の2人の息子と15cmのムスコを持つ僕にとって、それは浮気に他ならなかったが、これは遊びであって、本当の愛は家族にあるのだと考えて割り切った。
たまにミサの香水の強い香りが服に付いたり、長い髪の毛が服に付いていたり、ベトナムの伝統的な麺料理「フォー」の麺が髪に絡まっていたりして妻に不審がられることもあったが、勤めている会社の社長がいろはすの代わりに香水を飲んでいて、左のもみあげが腰まであり、残った昼ごはんの麺を僕の頭にかけてから毎日会社をあとにしていくんだと言ったらすんなり納得してくれた。
その説明をしているときにミサの名刺がカバンから落ちたが、運良く息子達が遊戯王をしていたので、長男のフィールドに裏側守備表示で召喚したところ、妻には気づかれなかった。
長男は、ミサとワイトを生贄に、竜騎士ガイアを召喚した。
次男はトラップカード「落とし穴」を発動した。


ミサと出会ってから、僕は多額のお金をミサに貢いだ。毎回の食事はもちろんのこと、高級ブランドのバッグや時計、初期の頃のベイブレードなど、とにかく彼女が欲しいというものは全て与えた。
ただのサラリーマンである僕にとって、その出費は中々痛かった。キャバクラにハマるとはこういうことなのかとひしひしと感じた。分かってはいるが、やめられなかったのだ。貯金は底を尽きそうだったが、ミサが喜んでくれるならばどうでも良いとさえ思ってしまっていた。


ある時、仕事が終わり家に帰っていると携帯がなった。ミサからだった。
「どうしたんだ?」
「ヒロシ…わたし…ミサよ…変な人達に捕まって、監禁されてるの…早く助けにきて…場所は…◯◯ビルの205号室…」
「おいミサ!大丈夫か!すぐに助けに…」
「ガチャッ。プーップーッ。」
ミサは泣いていて、その声は震えていた。僕はすぐにミサが口にした場所へ向かった。そこは路地にあるボロいオフィスビルだった。
205号室に入ると、そこには明らかにヤクザだと思われる男が2人バトミントンをしていた。
「ミサはどこだ!!」
僕は大声を出して言った。
ヤクザの1人がこちらを向いていった。
「あ?ああ、お前がしょぼい浮気サラリーマン野郎か。ミサだと?ああ、ユキエのことか。ユキエ、出てこい。」
ユキエ?!誰の事だ?と思った時だった。奥からミサが出てきた。
「ヒロシ、ごめんね。わたしこの人達の仲間なのよ。」


著者 尾田謙真 
「貢ぐ男〜前編〜」より