ブラックデビルのココナッツミルク、僕が吸っているタバコだ。タールは8mmで煙の香りが強い。コンビニには中々販売されていないが、僕がこれを吸うということでオフィスの売店では取り扱っている。佐々並を呼び、450円を渡してタバコをパシらせた。このブラックデビルは460円なのだがあえて10円足りなくさせる。ひどい時は20円しか渡さない時もある。お金がないわけじゃないが、これも佐々並に社会勉強をさせるためだ。最近の若者は考えが甘い、練乳より甘い。そもそも佐々並が何歳なのか僕は知らない。知る由もない。見た目は若く見えるが頭髪はかなり薄めだ、中々独特なハゲ方で襟足から髪がなくなってきている。ただ顔はおぼこいために歳下ではないかと踏んでいる。歳上でもそんなには驚かない。パシらせてから20分が立つ。いくら高層ビルだからといっても、エレベーターを使えばすぐに着くはずだ。知恵の輪で時間を潰していると佐々並が帰ってきた。相変わらずノックはせず勢いよく部屋に入ってきた。腹が立ち、知恵の輪を眼球に打ち込んだ。しかし流石は佐々並、ケニアで修行しただけのことはある。眼球にぶち込まれてもビクともせず、軽く眼球から血が流れたくらいだった。気の利いた佐々並はタバコと一緒に、電子レンジを買ってきた。これで4回目だ。つまり僕はすでに家の電子レンジを含め5つもっていることになる。流石にいらないので、部屋の窓から下に投げつけてやった。外の下でレンジが破裂する音がしたが、佐々並が買ってきた新品のタバコを開けて火をつけた。
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タバコを吸い終わったところで、部屋のテレビを付けた。とりあえず日付けを確認したかったのでニュースを観ようとしたが、テレビを付けても真っ暗のままだ。携帯も取られている、日付けと時間が確認できないまま、外が暗くなっていくのがわかる。人間は時間が分からなければ、ここまで不安になる生き物だということをひしひしと感じた。カーテンは開けれるものの、窓は閉められている。完全に外部との連絡を遮断させるためだろう。家庭用電話だけは設置されているが何処にかけても繋がらい。どうやって外に出るかを考えたが、一向にいい案は思いつかない。とりあえず餓死だけはさけたい。おもむろに冷蔵庫を開けて何か食べる物を作ろうとした。でも僕は産まれながらにして裕福な家庭にそだった。一度も料理をしたことがない、ましてや包丁なんてものは握ったことすらないくらいだ。裕福な家庭で育ったことを初めてここで後悔している。だがなぜ僕はここにいるのだろう?全く記憶がない。何も覚えていない。かろうじて、昨日食べたオムカレーの不味さは覚えている。ひどかったからだ。3分の2を食べ終わったところでこれはうんこだと気がついた、オムカレーを食べていたつもりが、まさかオムウンコだったとは。そのあとDベックスの社長と電話をしていたのも記憶している。ただそれ以降が思い出せない。そんな事を考えていると、
プルルルル、プルルルル、設置されている電話にかかってきた。僕は急いで受話器を取ると、聞き覚えのある声が出た、恐らく男だろう。「西川慶次さんですね?こんにちわ。その部屋は私が監視しています。」あたりを見回したがカメラらしきものはない、まぁ何処かに隠しカメラが設置されているのだろう。「あなたの行動は全て把握しています。残りのブラックデビルは何本ですか?」残り6本だと応えると、食い気味で男が高い声をだしはじめた「ハッハッハ!なるほど。残り6本ですか、1日いくら吸っても構いません。しかし、なくなっても新しいのは出てきませんよ〜。せっかく食材をおいておいたのに、どうやら料理ができないみたいですね〜。どうにかして生き延びてください。あっ!餓死だけはやめて下さいね〜。では!」おい!と声をかけたが、電話すでに切られていた。どうすればいいんだ?だんだん自分の無能さに腹が立ってきた。タバコも残り6本、無駄には出来ない。普段からヘビースモーカーではないため僕は6本あれば2週間はもつ。しかしどうすれば、、、
吸いたい欲を抑えながら、スフィンクスのポーズをして、ワンルーム生活1日目が過ぎていった。
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エアコンを付けて寝ると、朝方が寒くなってきた。そろそろ掛け布団でも出そうかな。10月の初めでも、風がすごく気持ちいい。無事に会議は終わり、プレゼンテーションも評判が良かった。これで株式会社リモコンとの契約も上手くいくだろう。満足感に浸りながら秘書が運転する車で会社までもどった。道中に我慢ができなくなり、広場の隅に車を停車させ、秘書に陰部を愛撫させた。日常茶飯事だ。並の人間より性欲が強い。最近は道草にですら興奮してしまう。歩く人間に踏み倒され、それでもなお根強く生きようとする様に興奮が抑えきれないのだ。車を発進させ会社についた。すると、佐々並から一本の電話がはいった。「西川さん!いな!西川はん!大便です!あっ、大変です!株式会社リモコンさんから、今回の話はなかったことに!と連絡が入りました。詳しい理由は聞いていませんが、リモコンさんからは、西川君に聞いてくれ!と強い口調で言われたので思わず失禁してしまいましたが、西川はん何かしたんですか!?」佐々並が焦っている。失禁してしまいましたが。聞いてくれ!以外ポルトガル語にしか聞こえなかったのでほぼほぼ聞いていなかったが、焦っているのだけはわかる。失禁しているのはどうでもいい、これも日常茶飯事だ。茶飯事すぎて、佐々並のデスクの周りは芳香剤が敷き詰められている。しかしどうしよう、何も大きなミスはなかったはずだ。秘書に確認し、僕のバッグを持ってきてもらった。やってしまった。大きすぎるミスだ。リモコンに渡すはずの書類がまだバッグの中に入っている。ましてや横においてあった、レイアップシュート初級編の雑誌がない。しくじった。三十路に入り、軽い運動をしようとあの雑誌を買ったことに深く後悔している。
とりあえず株式会社リモコンに電話をしたが、一向に出てくれない。秘書を呼び両乳首を愛撫させた。
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カーテンの隙間からの強い光で、朝目が覚めた。これで5回目の日差しだ、つまりこのワンルームに来てから5日目が立ったということか。この5日間なにも口にしていない。ストレスからか、普段なかなか減らないタバコも底を尽きた。何かに怯えているわけでもないが、少しの物音で失禁してしまう。隣にスポーツ選手でも住んでいるのか?まず隣人がいるのかどうかもわからない。腹が減った、外の空気が吸いたい、衣服を着替えたい、いろんなストレスが重なり、もうピークに達している。何もかもが嫌になってきた、今までの自分、なに一つ苦労もしないまま大学を卒業し今の会社に就職、就職してからすぐに得意だった知恵の輪の才能が認められ管理職になり、社長が行方不明になり27歳の時にそのまま社長に就任した。確かに考えてみれば、僕は仕事は一切していない、社員全てを任せ、大事な時だけ社長面、ピンチのときには佐々並に全ての責任を押し付けていた。株式会社リモコンとの取引を失敗したときも、佐々並の責任にした。詳しく言うのであれば、会議でプレゼンテーションをしたのは西川ではなく佐々並だと言い張り、全ての責任を佐々並に向けさせたのだ。なんて自分はひどい人間なんだ。
まてよ、
株式会社リモコン?会議?タバコ?何故電話を掛けてきた男は僕が吸っているタバコをブラックデビルだと知っているんだ?冷蔵庫に入っている使用済みのコンドーム、オロナイン、そして、銀色のブロッコリー。いつものBARで聞こえた男女の声、女の声もどこかで聞いたことのある声だった。誰だ!誰なんだ!何故そこまで思い出せて、名前が出てこない!怖くなった僕は、カーテンの向こうにある窓を必死に開けようとした。すると「ビリっ」と音がして、窓の端から何かが剥がれた。窓を必死に揺らし、剥がれているものをおもいっきり破った。窓からはいる光は自然てきな日差しだったが、いつも違和感を感じていた。こういうことだったのか!全ての謎が解けた、そこから見えた景色はどこか見覚えのある場所だった。全く田園ではない、この建物からの景色、間違いなく450ろ.....その時だった、天井についている火災報知器だと思っていた物から何か異臭のする煙がでてきた。
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私は女社長だ。この「枝豆ホールディングス」の社長になり、3年がたった。業績も上げ、世界へと進出している。日本が女社会になる中で私のような存在は総理大臣や国民が注目する的なった。長者番付でも上位に食い込み、私の資産は半端ではない。会社では私の言うこと成すことは絶対だ、パチンと指を鳴らすと秘書がコーヒーを持ってきてくれる。2度パチンと鳴らすと部下が走って私の部屋にやってくる。パチン、パチン、向こうの部屋から走ってくる音がわかる。相変わらずノックもせず勢いよく入ってきた。「ちょっと〜、悪いけどタバコ買ってきてくれない?はい、40円。あーー、君新人?わかる?ピースのインフィニティね!わかった?」「はいっ、わかりました。ピースのインフィニティですね。初めまして、新人の西川慶次です。」
著者
覚野元気
「ワンルーム〜後編〜」