川沿いに沢山の夜店が立ち並び、大勢の人が賑わっている。昔ながらの金魚すくいや綿菓子、最近ではたこせんや焼きそばなどB級グルメも人気で人が絶えない。地元の花火大会ながらも各都道府県からも観光客が足を運んでいる。私の家はは都内から電車で1時間ほどかけた場所にあり、駅からこの川沿いは通勤ルートなので毎日あるいている。ほんの2年ほど前までは都心の高層ビルに住んでいたものの、ある出来事から今は汚いアパートに住んでいる。今日最後の大きな花火が打ち上がり多くの人達が拍手喝采の中、その花火を背に心の中で「たーまやー」と叫んで家路を急いだ。


まだ日の出すらしていない朝の4時半から私の通勤は始まる。本来うちの会社「枝豆ホールディングス」の通勤時間は9時なのだが、私は25階建てのビルを一人で一階から掃除し、正面玄関にある本格むぎ焼酎二階堂のオブジェを磨いて、24時間勤務で働いている男性警備員さんの陰部を掃除しないといけないため私だけこの時間に出勤しているのだ。そんな私の名前は富永隆二(とみながりゅうじ)2年前まではなに不自由なく暮らしていたのだが、現枝豆ホールディングス社長、佐々並雅也(さざなみ まさや)になってからというものの私の人生は一転した。私が社長だったときは都内にある高層マンションの45階に住んでいた。45階には6部屋しかないが、私は人が苦手なのであまり近所付き合いは良くなかった。でも隣に住む外国人、キンケードさんだけは仲良くしていた。たまにどこから拾ってきたかわからない靴下や、半年履き続けていた靴下、さらにはなにか白い液体が入った靴下までくれた。本当に仲が良く、週に8回、二人でドトールに行っていたくらいだ。他の部屋に住む人達はエレベーターで会えば会釈程度だったので深い付き合いはないが、確か私が住んでいたころ4506号室だけはまだ空き物件だったきがする。一通り朝の作業は終わり、午前10時頃社長が出勤してきた、まさに社長出勤だ。通常の社員より1時間遅れている。「メソセラピー!」社長室から聞こえてきた。これは佐々並社長が私を呼ぶ合図である。社長室は23階、私のデスクは地下3階なのでかなりの距離はあるが私レベルになってくると、隣で叫ばれているかのように聞こえてくる。というのも社長室にもある、少し小さめな本格むぎ焼酎二階堂のオブジェに盗聴器を仕掛けているからだ。社長の愛人との電話や、秘書との性行為、ペンを動かす音から耳かきをする音まで何でも聴こえてくる。社長室まで階段でダッシュで行き、ノックもせずにドアへ入った。するといきなり私の頭に大量にとかしたロウソクをぶっかけてきた。私は同様したが、1歳の頃から日焼け止め代わりに溶かしたロウソクを塗っていたのでビクともせず、全身に低温火傷を負ったくらいだった。
なんでしょうか?佐々並社長に問いかけると「タバコを買ってきてくれ、マールボロ メンソールライトのロングだ、はい、15円」いつものパターンだ。現在タバコは440円、そろそろ税金があがり460円になる噂がある。残りのお金を払うのは別になんてことないのだが、15円の5円が本当にいらない。使い道がない。そんなことを思いながら下の売店まで走っていった。600円を持っていた私は気を使わせて、100円ライターを一つ買った。すると売店のおばちゃんが「最近物騒よね〜。玄関に20億円裸で置いてたら、いつの間にか取られてたのよ〜。本当嫌になっちゃう!はい、タバコとライターで545円ね〜。」5円の使い道があるじゃないか。何かいい気分になり、今日通勤中に盗んだ20億円を売店に置き、社長室へ向かった。


あれから佐々並社長に呼び止められ、仕事そっちのけで社長の陰部を愛撫していた。32回目の射精を終わったところで、社長の顔色がだんだん悪くなっているのが上目遣いでわかった。50回目の射精が終わり、流石に社長も疲れたのかピラミッドの舞で自分のHPを回復させた。佐々並社長は小さい頃から英才教育で、ケニアに修行に行ったり、腹筋の造形師とも言われている「セカンドバッグ望月」の所に弟子入りするなど底知れない強さを佐々並社長は持っている。機嫌か良くなった社長は一人で西麻布へと消えていった。私も今日の仕事は終わりだったので、秘書を食事へ誘った。彼女は私が社長時代雇った中々気の利いた秘書であった。私が社長から降格し、このような事になっても彼女は、いつも私を見るたんびに笑顔を見せてくれた。私が採用したのを今でも感謝してくれているらしい。お金が無い為彼女の奢りで行く事になった。「和風創作料理 嘉門黄門」という店に連れて行ってもらった。中々小洒落た店で、沢山の日本酒や独特な形をしたドアノブなどが所狭しと並んでいる。個室に入り、食事が始まった。お互い酒も進み、いつのまにか佐々並社長の愚痴をこぼしあっていた。やはり彼女もストレスを抱えているらしく、佐々並が社長になってから2年もう限界らしい。そこで秘書の高野明美(たかの あけみ)がこんなことを言い出した。「富永さん...いい考えがあるんです...佐々並社長を...閉じ込めませんか?」私はなにを言っているのか意味がわからなかった。閉じ込める?どういうことだ?と質問をすると彼女は「つまり、野菜炒めは本格的な中華鍋で炒めた方が家庭用のフライパンとは火のつわり方が違い、味や食感も全く違うんです!!えーー。だからー。よーするにー。ワンルームの部屋を改造して、佐々並を閉じ込めるんですよ!!」野菜炒めの話が勉強になりすぎてあまり入ってこなかったが、なんとか理解できた。「実は私、以前富永さんが住んでいたあのマンション!私の父が買い取っているんです!だから、部屋を一つあけてもらい、改造すればなんとでもなりますから!」確か彼女を採用したとき、履歴書を見るかぎりかなりの金持ちだったことは覚えている。しかしまさか以前私が住んでいたマンションが彼女の父が経営しているものだとは全く知らなかった。
でも大丈夫なのか?そんな事をしたら間違いなく犯罪だ。私は深く悩んだ、目の前にあるワカサギの天ぷらを箸で持ちながらやるべきかやらまいか深く悩んだ。しかし私も以前社長になってから何故私がこよような立場になってしまったのか全く覚えていない。彼女を採用してからというものの社長からどうやって降格したのか、その経緯も全く覚えていないのだ。何か心に違和感を感じながらも、今の生活にうんざりしていた私は少しでも変わるならとその案に乗っかった。


花火大会も終わり、いつのまにか蝉の声も聞こえなくなってきた川沿いを歩いて駅に向かっていると、彼女から一本の電話が入った。「とうとう今日が本番ですね。この前渡したカプセルはなるべくカバンから出さないようにして下さい。それと先日言い忘れていましたが、私は高校生の頃から生理不順なので欠かさずピルを飲んでいます。」と、私は緊張感がおさまらない中最寄りの駅に乗り込んだ。電車の中でもどうも落ち着かない。大好きなたまごっちも、ウンコがたまりすぎていつのまにかおやじっちになっていた。駅を降りて会社に到着し、早速掃除を始めた。いつもは3分で終わる警備員さんの警備も、今日は中々うまくいかず5分かけてやっといかせた。社長が出勤していつも通りお呼びがかかると、今日も雑用ばかりさせられた。こんな生活も今日で終わる。そう信じてなんとか乗り切った。日も暮れて夕方の5時半を過ぎたところで、佐々並が西麻布へと向かった。私と高野は後ろから佐々並を尾行した。いきつけの高級クラブへ佐々並が入り私と高野も中へ入っていった。佐々並より先に酔わないように、飲みたくもないオレンジジュースを片手に佐々並の様子を伺った。彼は楽しそうに綺麗な女性達と酒を交わしながら、次々と高い酒を開けていき顔を真っ赤にさせ女性の肩にもたれかかっている。「ちょっと〜ぉ、社長!おっぱいに手あたってますよ〜。」いつものことなのだろう、そんなに嫌がる様子もなく女性達はあしらっている。あきれたのか佐々並を手をそっとどかし、女性達が他のお客の方に行き始めた。今しかチャンスはない、佐々並の方へ駆け寄り口にカプセルをぶち込んだ。高野がクラブの女性を装い、「社長!お水飲みましょ。」と自然な形で水を飲ませた。佐々並は高野方へもたれかかり何かを喋ろうとしている。呂律が回っていないのと、ほぼほぼポルトガル語にしか聞こえなかった上に口が臭いため、何を言っているのかわからなかったが、「おっ、お前ら、、」とだけは聞こえた。薬が効いてきたのか体がぐったりしていた。高野と二人で佐々並を抱え込み、例のワンルームへと運び込んだ。


目が覚めると
全くどこかわからないワンルームの中にいた。外から鍵は閉められていて中から開けられない構造になっている。カーテンが閉ざされていたのでカーテンを開けてみた。かなりの高層マンションでまわりは田園が広がっている。外の景色からは場所は特定できない。ただ一つ分かるのはここが東京の都心ではないってことだ。
部屋の中を観察してみると、いたってなんの変哲もない家具や食器、家電製品などが並べられている。メーカーもバラバラ、誰かが生活していた形跡もなく全く誰の家かもわからない。冷蔵庫の中には一週間は生活できそうな食料はある。
謎が深まるまま、このワンルームでの生活が始まった。


社長室から手を叩く音がした。私と富永さんがいるこの地下3階から、ダッシュで社長室まで走り込んだ。ドアの向こうでは「あけみちゃーん!あけみちゃーん!」と社長の声がする。恐らく秘書の高野明美を下の名前で呼んでいるのだろう。ノックもせずに勢いよく部屋に入ると、社長が目に知恵の輪をぶち込んできた。しかし私は1歳の頃からの英才教育もあり、ケニアで修行したためビクともせず、目から少し血を流すだけで済んだ。いつもこんな感じだ、社長は僕をカモのようにしか扱っていない。人間だとは思われていないのだろう。ほんの数年前までは社長で、そこそこ稼ぎもあった。高層マンションにも住んでいた。そんな私がいつのまにか雑用係だ。唯一の先輩富永さんと社長秘書の高野明美だけは私と仲良くしてくれる。全人類の中でここまで我慢強いのは私くらいだろう、そんな事を毎日のように思っている。


10月の初めになり、蒸し暑かった風も今は気持ちのいい風になっている。水のせせらぎを聞きながら、通勤ルートの川沿いを歩いた。
今日の社長の予定は、今日本経済の中心とも言われている「株式会社リモコン」とブロッコリーを銀色にするという重要な会議のプレゼンテーションだ。この日の為に私も全力を注いでいた。資料も作成し何から何まで私が全て考えた。ブロッコリーを銀色にすれば、世界の90%のCO2を削減し、AB型の8割もの人間が右利きになるというメリットがある。政府もこの計画に大賛成し、今日の会議が世間を賑わせている。通勤中の電車の中で心を躍らせながら隣に座っていた女子高生のふくらはぎを凝視していた。会社について富永さんと二人で掃除をし、二人でフェンシングをして汗を流した。社長の昼ごはんを買いに行って社長室の机に置き自分のデスクへ戻ろうとした、すると一本の電話が入った。英才教育だったためコールセンターでの修行の成果がここでは生きてくる。ワンコールも鳴り終わらない間に電話にでた。株式会社リモコンからだ。「おい!どうなっているんだ!あれだけ信頼し、今回の計画はどのような事があっても実行すると我が社でも決めていたんだ!そんなうちをバカにしているのか!」動揺していたせいか、おい!しか聞こえなかったため、アニマル浜口さんですか?たぶん間違い電話ですよ?と言い返してしまった。火に油をそそぐとはまさにこういうことだ。「もういい!今回の件はなかった事にしてくれ!理由は西川君に聞くんだな!」そう言って電話を切られた。すぐに社長に電話をし確認してもらうと、電話の向こうで、しくじった。という声が聞こえた、何をしくじったのかはわからないが私が徹夜で考えた計画も資料も水の泡のだろう。水の泡というよりは、ランボルギーニと言う方が正しいのかもしれないな...。それから1週間がたち、株式会社リモコンから私直々に電話がかかってきた。なんのことかわからなかったが、理由は全ての責任は私のせいだということだ。何か笑えてきた。こんなことをしている自分がバカみたいで。得意のピラミッドの舞をしても全く気分とHPが上がらない。こんな生活は嫌だ。こんな毎日は嫌だ。私はなんのために生きているんだ!数年前の生活はどこへいったんだ!何故何も思い出せない!いつ!私は!こんなことになったんだ!
完全に自暴自棄だ。自分を責め続けた。何も変わらないとわかっているのに、何か変わるなら、何か変わるなら誰かの手でも借りて変えてみせたい。
今日の天気は曇りだ。薄暗い地下室で顔を伏せていると、一筋の光が私を包み込んだ。天気は曇りのはずなのになぁ。窓を見ようとして顔を上げてみると、光の理由がわかった。目を開けて光の方をみると高野明美が私の方へ手を差し伸べていた。




著者
覚野元気
「ワンルーム〜完結編〜」より