「このままオナラをし続けると命はありません」

「ド…ドクター、それはもう僕はオナラをしてはいけないということですか?」

「君には家族もいるだろう、オナラごときで命を落とすなんてバカバカしいと思わないかい?」

「おっオナラをバカにしないで下さい、1ヶ月後にある僕が勤務している中学校の体育祭の伝統で僕の屁太鼓でえっさっさを指揮しなければいけないのです、これだけは譲れないのです、ドクター…」

辺宇等勉は涙と平井堅の「POP STAR」を流した。

「そこまで言うなら…オナラは1日50回そしてドレミの「ミ」の音は3回まで、それを守れるならオナラをしてもいいです」

「ドクター…」

辺宇等勉は涙とジェロの「海雪」を流した。


「おはえっさっさっ」
「おはパイナポー」

10月初旬、都鳥中学校に来て1ヶ月が経ちこの挨拶にも慣れてきた。しかし今日は何か違和感がある…それはなにか?いつもはハーフナー・マイクのユニフォームを着た11人の集団が縦縞の背番号17番のユニフォームを着ているのである。今日は何の日か、それを考えたときにハッとした。そう今日10月2日は伝説のサウスポー、トレイ・ムーアの誕生日なのである。トレイ・ムーアの三塁打をおかずにせんずりをした経験のある自分からしたらそれにすぐ気付けなかった自分は時速2キロのブルドーザーに引かれれば良いと思った。動揺を隠しきれない自分はムササビ跳びで2年2組に向かった。


「ハチクチ〜」

独特の挨拶を発しながら担任の辺宇等勉先生が入ってきた。「ハチクチ〜」というのは辺宇等勉先生がハローを漢字で読んでしまっているらしい。

「みなさん明日は待ちに待った体育祭ですね、男の人はえっさっさ、女の子はおっとっとをするのが楽しみで楽しみでウズウズしてると思いますが今日1日しっかり授業を受けましょう」

「OK牧場」

2年2組の生徒275人が声を揃えて先生に返事をし、ホームルームを終えた。


太陽の日差しが降りしきる運動場、今日は体育祭当日、不安と塩昆布が入り混じりながらえっさっさの出番を待っていた。

「次は2.3年生のえっさっさです、都鳥中学校伝統のえっさっさをこの目に焼き付けて下さい」

司会の人の紹介が終わりえっさっさが幕を開けた。

「水の都の大阪で〜」

「ブッ(ミの音) 」「 ブッ(ミの音)  」「ブリッ(実が出る)」

リーダーの声と辺宇等勉先生の屁太鼓が都鳥区中に響き渡る。

「その名も高き都中の〜」

「ブッ(ミの音) 」「ブッ(ミの音) 」 ……………

…………



「おはえっさっさ」
「おはパイナポー」

20年前の中学2年の時に初めて聞いたあの日と変わらぬ伝統の挨拶が今日もこだましている。もちろん伝統であるトレイ・ムーアのユニフォームもだ、しかしここ5年はオリックス時代のユニフォームを着て10月2日を迎えている。
私、餌も34歳、教師になり12年目を迎える。秋の訪れを感じると辺宇等勉先生とのあの日のことを思い出す。えっさっさの屁太鼓で殉職した辺宇等勉先生…都鳥中学校では毎年10月3日は屁太鼓の日と定められていて、祝日となっている。

「えっさっさの向こう側」

それを唯一見た伝説の男辺宇等勉先生の功績を称えこの日がもうけられている。あれから20年経った今もえっさっさの向こう側を見た人は辺宇等辺ただ1人だ…

著者 丸山貴也
「えっさっさの向こう側〜後編〜」より