夕日に背を向け賑わう繁華街を歩いていた。
私は普通のサラリーマン、普通といっても砂ずりを一回串から取って箸で食べるくらいのサラリーマンだ。今日はなにを食べて帰ろうか。独身の私は家で作るのが面倒な時はいつもこうして街で夕飯を済ませて家に帰る。今日は飲みすぎないで帰ろうか。先日、酔った勢いでおしぼりをオカズに射精したのは言うまでもない。
夕暮れに黄昏ながら、今日の夕飯を考えていた。


「あらじゃい!」
中々癖のある掛け声で店に入った。今日はほうれん草のお浸しを中心的に食したかったので、お浸し専門店に入った。店の名前は「居酒屋 武蔵」店内を眺めると数えきれないくらいのお浸しが短冊の様にメニューとして並んでいる。1番驚いたのは「七味のお浸し」そもそも粉状の七味を浸そうという発想が度肝を抜かれた。抜かれすぎて、度肝のみが単独で生きているかの様だ。
とりあえず生LL一つ。
生中では基本的に足りない。よく出来た店だ、注文して1時間立って生LLが届いた。
「27度が、果たして暖房といえるのかかがわからん。」店主が言い出した。
私は間髪入れずに「えびっさん魂!」と言いながら、店主の右太ももをもぎ取った。


右太ももをもぎ取るって、どういう表現なの?これは後々効いてくる?あと暖房のくだりいる?誰が観るのよこの映画?どこの年齢層狙ってる?


「地震だ!マグニチュードは24.5」全く揺れていない店内で店主が叫びだした。私以外の客は手元にある灰皿で頭を隠しだしたが、私は微動だにしなかった。微動だにしなさすぎて少し失禁したくらいだ。ほうれん草のお浸しを中心的に食しながら今日の仕事内容を振り返った。朝からエレベーターのボタン一つ一つに愛液をぶっかけ、デスクの上で一斉を風靡したゴリエのコスプレをした。お昼を過ぎて貝柱の舞をした私は、社長の家の鍵を盗んで、合鍵をつくった。今日も忙しかったなぁ。そう振り返りながらジュクジュクのトマトのお浸しを食した。


ちょっと待って。監督の考えがわからない。最初の地震は何?揺れたの?揺れてないの?24.5?いや、割れるでしょ。地球割るでしょ。そして仕事内容!フジテレビから苦情来ない?僕対応しないからね!あとトマトって浸せるわけ?いやまず、浸すって何よ!


我慢できなくなった私は四季折々のお浸しを頼んだ。ビールを飲み干したあと、なにを呑もうか迷っていた。どうしよっかなぁ。。じゃぁ、サバチューハイ一つ!お浸しを肴にサバチューハイを飲んでいると、いかにもポン酢が好きそうなマダムが入ってきた。「あらじゃい」癖のある掛け声が響き渡ると、マダムはおもむろに左ほっぺたをもぎ取り出した。中々威勢のあるマダムだ。タルタルソースについて語っているサラリーマンを背に、お箸を使って貝柱の舞をした。


もう俺はわからん。監督の意志がわからん。右太ももをもぎ取るとかほっぺたもぎ取るとか、どういう状況なの?この映像実際グロいよ。サバチューハイもグロいし。どうなってんの?
「いや監督曰く、まだ未完成なんだ。後々ジワジワくるんだ」と言っていました。
いや、ジワジワもこないでしょ!どこが映画なのよこれの?貝柱の舞ってなに?大丈夫?来週公開だけど?


最後にもう一品食べたいなぁ。どうしようか。うーん。そうだなぁ。よし!すみません!私のお浸し!等々私はほうれん草のお浸しを中心的に食したすぎて、自らお浸しになることを望んでしまった。これぞまさに、お浸しのお浸し。浸しきった私は、積もりもしない粉雪にうたれたがら、家路を急いだ。


え!?おわり?え!?おわり?大丈夫?これ映画だよね?覚野先生怒るよ?こんな話じゃなかったよね?僕もこれ読んだけど、小説では、サスペンスだったよね?全く違うじゃん!
「でも、監督がこれでいくっておっしゃっているし、もう撮影もおわってるんで、、、」
もう、なら、これでいくか。来週公開でよろしく。。

「雪国殺人事件」
2035年夏全国ロードショー



著者覚野元気
「くいちがう男達」より