蛇足ながら、それからのことについて少しだけ書いておこう。


 結局、2人3脚の期間は図らずも儚かった。


 結果はどうあれ、短かった時間だけがすべてを物語る。



 2人3脚時代に知り合ったいくつかのクライアントとは、なぜかマネージャーという関係ではなく、ライター・フォトグラファー・プロデューサーと形を変えて、継続する関係になった。


 ただ肝心の2人3脚で走ったパートナーとは、その後、ボクはあえて連絡をとらないように努めた。

 「彼女」からメールが来ても、いっさい返信はしなかった。

 意図的に「彼女」から遠ざかったのだ。


 それまでの濃密な往来を知る人たちからは、「どうして連絡をとらないのか?」とか「仕事が忙しいのか?」とか「彼女に対する情熱は失ったのか?」とか「彼女との伴走は単なる“ビジネス”だったから、金をもらわないのなら関わらないのか?」など、私の態度を冷たいと受け止め、不思議がる人も少数ながらいた。


 そしてなにより、自分がまったく思ってもいないことをおせっかいにも「マネージャーに戻りたいなら仲をとりもってもいい」と言い出す人もいた。


 しかし、鉄道という分野で仕をしているのだから、どこかで会ったりすることはあったとしても、以前と同じような接し方をするつもりは、もうなかった。

 


 ある時期、ある目的のために力を尽くしてきた。

 その運命の線路が分岐した以上、無理にその線路をつなげることはない。

 お互いがそれぞれの線路を走ればいい。


 別々の線路を走るからといって、2人の関係が消滅するわけではない。


 なによりも、ほかにも鉄道アイドルと呼ばれる女性も何人か出てきて、その何人かとは一緒に仕事もした。

 一緒に仕事をした子のなかには、素質あるなと感じる もいた。

 

 JRが東武に乗り入れたように、阪急と阪神が統合されたように、なにかがきっかけで2人はまた変化したり、外的刺激によって再び同じ線路を走ることがあるかもしれない。それがいいことなのか悪いことなのかは別として、とにかく今は違う線路を走るだけだ。


 今のところ、同じ線路を走る兆候はまったくない。

 そして同じ線路を走ろうという意思はない。


 それでも、必要ならば、鉄道という不思議な装置が、偶然という名の必然として2人を引き寄せるだろう。

 


 そう、ボクも彼女もそして周りの人も、誰も気付かないうちに、そっと……。


 
キーホルダー




”人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない。なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶とともに現在を生きているからである”

大崎善生『パイロットフィッシュ』


(おわり)