戦争は何が一番悲惨かというとたったひとつのかけがえのない「生命」が失われること。

命ははたったひとつ。 愛する人の  かけがえのない 「いのち」が。

誰が・・・・                  谷川俊太郎

 

誰が殺すのか?

無名の兵士を

目に見えもしない国境の上で

 

誰が造るのか?

冷たくなまぐさい銃を

子供を愛撫するその手で

 

だれが決めるのか?

正と不正とを

もっともらしい美文調で

 

みんなその誰かを探している

自分以外の誰かを――

 

サリム自伝  この詩も 「平和のために戦争」なんてありえない。100%。

金子光晴 

     戦争 

            金子光晴

      千度もぼくは考えこんだ。

      一億とよばれる抵抗のなかで

      「なにが戦争なのだろう?」


 

      戦争とは、たえまなく血がながれでることだ。

      そのながれでた血が、むなしく

      地にすいこまれてしまうことだ。

      ぼくのしらないあいだに、ぼくの血のつづきが。

      敵も、味方もおなじように、


 

      「かたなければ」と必死になることだ。

      鉄びんや、橋のらんかんもつぶして

      大砲や、軍艦に鋳なおされることだ。


 

      反省したり、味わったりするのはやめて

      瓦を作るように型にはめて、人間を戦力としておくりだ    

       すことだ。

      十九の子どもも。

      五十の父親も。


 

      十九の子どもも

      五十の父親も

      一つの命令に服従して、

      左をむき

      右をむき

      一つの標的にひき金をひく。


 

      敵の父親や

      敵の子どもについては

      考える必要は毛頭ない。

      それは、敵なのだから。


 

      そして、戦争が考えるところによると、

      戦争よりこの世にりっぱなことはないのだ。

      戦争より健全な行動はなく、

      軍隊よりあかるい生活はなく、

      また戦死より名誉なことはない。

      子どもよ。まことにうれしいじゃないか。

      たがいにこの戦争に生まれあわせたことは。


 

      十九の子どもも

      五十の父親も

      おなじおしきせをきて

      おなじ軍歌をうたって。

 

  きょうだいを殺しに  高良留美子


わたしたちは言わなければならなかった
日の丸の波に送られて
たたかいに行く兵士たちに
きょうだいを殺しに行ってはいけないと
わたしたちは言ってはいけなかった

お国のために立派にたたかってきて下さいなどとは
国とは何なのか
国とは何だったというのか
わたしたちは日の丸の小旗など振って
道に並んではいけなかった
やがてその人の血に染まる
千人針などを作ってはいけなかった
わたしたちは言わなければいけなかった
どんなに美しいことばで飾られようと
あなたたちが殺しにいくのは
きょうだいしまいなのだと

わたしたちは言ってはいけなかった
お国のために死んで下さいなどとは
国とは何なのか
国とは何だったというのか
わたしたちは一度でも
そのことを考えたことがあったか
わたしたちは言わなければいけなかった
きょうだいを殺しに行ってはいけないと
日の丸の波に送られて 行き
二度と帰らなかった
男たちに
 

 

鄙ぶりの唄   茨木  のり子

   鄙(ひな)ぶりの唄

   それぞれの土から
   陽炎(かげろう)のように
   ふっと匂い立った旋律がある
   愛されてひとびとに
   永くうたいつがれてきた民謡がある
   なぜ国歌など
   ものものしくうたう必要がありましょう
   おおかたは侵略の血でよごれ
   腹黒の過去を隠しもちながら
   口を拭って起立して
   直立不動でうたわなければならないか
   聞かなければならないか
      私は立たない 座っています

   演奏なくてはさみしい時は
   民謡こそがふさわしい
   さくらさくら
   草競馬
   アビニョンの橋で
   ヴォルガの舟唄
   アリラン
   ブンガワンソロ
   それぞれの山や河が薫りたち
   野に風は渡ってゆくでしょう
   それならいっしょにハモります

      ちょいと出ました三角野郎が
   八木節もいいな
   やけのやんぱち 鄙(ひな)ぶりの唄
   われらのリズムにぴったしで

 

生きてほしいんです  谷川俊太郎

3.願い 一少女のプラカード(混声合唱組曲「五つの願い」) (youtube.com)

混声合唱組曲
五つの願い
作詩 谷川俊太郎  作曲 三善 晃


Ⅲ 願 い 一少女のプラカード


生きていてほしいんです
兵士は
生きていてほしいんです
兵士の靴が知らずに踏みつけた蟻も


生きていてほしいんです
青空の下で 穴の中でも
生きていてほしいんです
今日は


子どもたちはかくれんぼをしています
木の枝が風にゆれ
目をつむるとまぶたが陽に透けて赤い



誰が誰の敵なのですか
私たちはみな不死でないのに
生きていてほしいんです