RZ250の思い出①

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以前、「SRXの思い出」と言う題で、3割くらい美化したハナシを書きなぐったところ、極々少数の方にちょっとだけ褒められたので、味をしめて今度は「RZ250の思い出」書きますニヤリ

今度は更に古いハナシなのでもう5割くらい美化されたますけど、気にせず読んでくださいね照れ


80〜90年代のバイク小説風(ムカシそういうのが少し流行った)のような文体にて。


では。


 もうかれこれ20年も前の、古い古い話だ。

 更にずっと遡る学生時代にバイクの縁で知り合った女性と駅で偶然再会した。

 せっかくだからお茶でもしようかと誘うと「いいよ」と二つ返事で返ってきた。

 昔から全然変わっていないみたいだ。


 彼女と出会った学生の頃、とにかく僕は自分のRZ250が好きで好きでヒマが出来ると伊豆だ、信州だ、房総だ、と走りに行っていた。


 まあ別に峠の走り屋って訳でもないけど、気持ち良く上手に走りたい、とヘタクソなりに練習に励んでいた。


 彼女はたまに一緒に走りに行くツーリングチームの仲間の1人で、10数人での大掛かりな伊豆半島ツーリングの時に初めて出会った。


 と言っても彼女はバイクに乗る訳ではなく1人だけクルマで参加してきた。


 赤いトヨタカローラ1600GT。有名なハチロクのレビン・トレノの兄弟車ではあるのだけれど、何しろカローラの4ドアセダンだ。

当時でも相当マニアックなヤツしか乗らないような、はっきり言えばかなりのマイナー車だった。


 特段太いタイヤも派手なスポイラーも付いていない一見ごくフツーのファミリーセダンなのだが、だけど赤いGTは彼女には似合っていた。


 テンロクのツインカムエンジンはマニュアルミッションの仕様しかない。

 彼女は(オンナのくせに)マニュアルミッションのシフトワークがめっぽう速く、運転はとっても上手かった。


 この日一緒に走ったどのバイクよりも彼女の方が速かったと思う。

 80年代の中頃、僕たちは

「バイクはクルマなんかより絶対速い」

と信じて疑わなかったし、フェラーリやポルシェならともかく、テンロクの国産車(しかもカローラの4ドアセダンだ!)の方が、峠のくねくね道でバイクより速いだなんて信じられない光景だった。


その日僕も含めて誰もが彼女の走りに付いていけなかった。


等距離を空けて1台ずつ走りこんで行くのだが、彼女のカローラGTと前のバイクとの距離はみるみる近づき、彼女の後ろを走るバイクとの距離はあっという間に離されていった。


 このチームで最速を誇ったZ750GPとCB750Fの2台でさえも同様だったのだから間違いなく彼女が最速だった。

 
 夕方まで○○スカイライン、△△道路、××峠と目一杯走り廻り、山頂のドライブインで休憩してその日は解散となった。

白いカローラ1600GT  お借りしました〜。



 クルマから下りて休息している時の彼女はふつーの女のコに見える。


 一体このオンナ何者なんだ?と興味深々だったけど、もちろん僕から話しかけることも出来ず、遠くから眺めてた。


 彼女はこのツーリンググループでは人気者らしく、みんなから声を掛けられ楽しそうに話していた。


 10何人かでの休憩&一服タイムを終え、さあて家まで帰るにはまだ150kmあるなあ、などとRZの前でぼ~っとしていると、後ろから

「あの人達の言うこと信じちゃだめよ。いい加減なコトばっか言ってるんだから。」

と声が聞こえた。


 振り返るとカローラGTの彼女だった。


「えっ?そうなの?」

びっくりして聞き返すと、

「そうに決まってるでしょ?コーナーの手前でブレーキ掛けるな、なんて言う人いないわよ。スローイン・ファストアウトがコーナリングの基本でしょうに。大体あんな嘘っぱちをふんふん聞いてるキミの方だっておかしいわよ。」


 初めて話した割には結構辛辣(しんらつ)な言い回しだ。


 何の事かと言うと昼メシ時にZ750GPとCB750Fのリーダー格の2人から

「RZはコーナー手前でブレーキ掛けちゃダメだよ回転下がるからさ~。減速したきゃギア落としてエンブレ掛けて高回転はキープすんだよ。」

とか言う会話があって、彼女はそれを聞いてたらしい。


「午後走ってた時、あの2人の言葉意識してたでしょ?午前中よりギクシャクしてたもの。午前中の方がよっぽど気持ちよく走っていたわよ。」


「ちゃんとウソはウソって見抜かなきゃダメでしょ?バイクは危ないんだから。」


 とまあ初めての会話はまるでお説教のようだった。


 こうして僕は彼女と知り合いになった。

 僕と同じ2回生で(でも1コ年下だった)、クルマ好きのお兄ちゃんから運転を習っていて、神奈川在住なので伊豆にはよく走りに行くことなどを聞いた。


 バイクにも乗りたいのだけど両親やお兄ちゃんも許してくれないと嘆いていた。


 でも免許取っちゃうもんね、と楽しそうに笑っていた。

 あ、いいなこのコ、と僕は瞬殺されたのだけれど、もちろん「また会いたい」みたいなセリフを言える訳もなく、その日は「それじゃ、また」なんて感じで現地解散した。


 桜の花も散り、いよいよ春本番の朧月夜の頃だった。

 それから2ヶ月半、何度かこのチームでのツーリングの誘いがあり、僕は再会を期待して全て参加したのに、彼女は一度も現れなかった。


 そして梅雨の合間の晴れた土曜日、この日ならまだ(夏前で)道も空いているだろうと計画された千葉県ツーリング。


 僕は、

「房総半島かあ~、神奈川からわざわざ来ないよな~、クルマだもんな~」

とアキラメ半分、でもひょっとしたらと淡い期待を抱きつつ集合場所へ向かった。


 やはりカローラ1600GTは見当たらない。今日も来ていないか、とがっかりしていると、

「久しぶり」

とまた後ろから声を掛けられた。

振り返ると彼女だった。


「今日はバイクだよっ」

と後ろを指差す。指の先には白いVT250Fが停まっていた。
「へへーっ、免許取ってバイク買っちゃった~」「あれから3ヶ月も掛ったよ~。長かった~」

と一気にまくし立てた。


 ホントにバイク買ったんだ?すごいね、よく反対押し切ったね、と言うと、

「頑張ったんだから。オンナがバイク乗るのって結構大変なのよ。少しは褒めてよね。」

「RZも良かったんだけどマネっこもなんだし、VTはRZのライバルだからね」

などと言われ、あれれっ?オレの事少しは気に掛けてくれてる?と、ちょっとウレシクなってしまう。

 ぴっかぴかの新車は購入してまだ2週間程で、一気に慣らし運転を終え今日に至ったそうだ。


 今日のメンバーは10台で、僕が一番後ろを走り、彼女は9番目だった。後ろから見ていると、彼女の走りはまだ免許を取って2,000kmを過ぎていないにしては安定していた。

 いやむしろ相当に上手だと言った方が正しい。

クルマの運転同様、減速・コーナリング・加速といった全ての流れがスムーズで、ギクシャクしたところが少しもないように見えた。


 休憩時に「上手いね」と言うと、

「う~ん左(コーナー)はいいんだけど右がヘタなのよね~。クルマだとどっちも差はないんだけどなぁ。」


 げげっ、バイクに4年乗ってるオレとおんなじ悩みをわずか2週間で抱えてるんだ、

と絶句した。


「なんだあ~、2人とも同じ位のレベルだね」彼女は楽しそうに笑った。

「あのね、どうしてもやりたかった事があるんだけど、つきあってくれない?」

夕方の帰り際、彼女は僕をこう誘った。


 何かというと、京葉道路を使わず金谷-久里浜のフェリーで帰ってみたいのだそうだ。


「明日何もないから大丈夫だよ」

「でも今5時で、これから房総半島横断して内房まで行ってフェリーあるかねぇ?トライしてみる?」

 結局僕たちはフェリーの最終に間に合い船上の人となった。 


 船上で僕たちは色々な事を話した。友達の事、家族の事、恋の事、就職への希望、あっという間に久里浜に到着し、お別れの時間となった。


 僕は勇気を振絞り、また話す機会があればいいのに、という趣旨をしどろもどろに伝えると、彼女は笑いながら

「土曜日に伊豆方面を走った帰りに寄ってくれればいい」

と言ってくれた。


 土曜のバイトが夜8時に終わりその後なら大丈夫なのだそうだ。

 それからの僕は、月に2回位のかなり頻繁な回数で伊豆方面に向かう事となった。


 昼間、伊豆のくねくね道を走り廻り、夜R134沿いのファミレスで待ち合せした。


 そしてその店に僕のRZを置いて彼女のクルマで走りに行ったり、お店でコーヒーを飲みながら延々と話をしたりした。

 こんな感じで僕達は大学を卒業するまでの2年間ずっと友達でいた。彼女にはずっとボーイフレンドがいたし、僕にもガールフレンドが出来たり(無くしたり)していたので、二人が友達以上になることはなかったけれど、その代わり、とても大切な友達になった。


(多分)つづく。