季刊労働者の権利に「独立リーグに所属する野球選手の退団、移籍を認めない球団に対して自由契約選手とするよう求めて地位保全の仮処分を申し立てた事例」(季刊・労働者の権利356号114頁)という事件報告を寄稿しましたが、いわゆる独立リーグにおける移籍制限の法的問題については下記のようにまとめてみました。

 

 

1 選手契約における移籍制限について[i]

    プロ野球選手契約においては、いわゆる保留制度と呼ばれる選手の移籍を制限する制度が存在している。これは、選手の意思にかかわらず、球団が、その一方的な意思に基づいて選手を保有することが許される制度である[ii]

 選手契約において、選手が他の球団に移籍をするには、球団の許可を得なければならず、選手が選手契約を自己都合で解除した場合においても、球団の許可なく他の球団との選手契約を含むいかなる契約も締結してはならない旨定められている。また、球団が当該選手との次年度の選手契約締結を希望した場合は、当該選手は球団の許可なく、他の球団との間で次年度について選手契約を含むいかなる契約も締結してはならない旨定められている。

 したがって、選手契約上、選手が、NPBを含む他の球団に移籍をするには、債務者において、債権者を自由契約選手として決定して、公示をしなければならない制度上の仕組みになっている(かかる原則の例外として「自由交渉可能制度」いわゆるフリーエージェント=FA制度が選手契約上も存在するが、当該独立リーグの同一球団に3年在籍することが条件となっており、3年在籍していない場合は自由契約選手とならない限り選手の意思で他の球団に移籍すること、移籍のための交渉をすることすらできない。)。

 つまり、球団が当該選手について自由契約選手と決定しない限り、当該選手は球団を任意に退団した場合においても、NPBを含む他の球団に移籍できないことになっている。

 かかる移籍制限は、セリーグ、パリーグ両リーグから構成されるいわゆる「プロ野球」すなわちNPB(日本野球機構)において従来よりとられていた制度であり、独立リーグにおける選手契約である本件選手契約も、それを踏襲しているものとみることができる。

 

2 移籍制限契約の有効性

(1)移籍制限契約の有効性

 選手契約上、この移籍制限契約を盾に球団側は、選手が自由契約を希望しても自由契約選手にしないことによって当該選手が他の球団に移籍できなくすることが可能となっている。選手としては、球団からこのような対応をされてしまった場合、このまま球団に在籍してプレイをするか、任意退団選手として野球界から引退する途しかなくなってしまっている。何らかの事情で球団との間で問題が生じ他球団への移籍を希望する選手にとっては、NPBへ挑戦するためには別のチームに移籍した上で次のシーズンで活躍する必要があることから、この移籍制限は場合によっては死活問題にもなりうる。

 そこで、このような移籍制限は法的に許容されるのか当然に問題となる。

 野球選手契約上の移籍制限は、野球選手の職業選択の自由(憲法22条1項)を不当に制約するものであり、また事業者である球団が他の球団と共同して当該選手と他の球団との自由な交渉という事業活動を拘束することにより競争を実質的に制限しているものとして独占禁止法に違反する疑いが濃厚である。いずれにしても、NPBすなわちプロ野球選手になることを最終的な目標として、そのためのステップとして位置づけられる独立リーグの球団における選手契約において、このような移籍制限を設けることの合理的な理由は見出し難く、本件選手契約中の移籍制限に関する規定は公序良俗に反し無効(民法90条)の疑いがある。

(2)NPBとの違い

 かかる移籍制限は、もともとNPBにおいても問題視されているところであるが、①選手の育成費用回収可能性を確保し、選手育成インセンティブを向上させる、②チーム戦力を均衡させることにより、競技の魅力を維持・向上させるなどといった必要性の存在とプロ野球選手会という労働組合の存在によって一定の権利保護が図られるうること、そもそもプロ野球選手の報酬は一般に高額であることなどといった許容性の存在によって、かろうじて正当化されているところである。

 これに対して、いわゆる独立リーグにおいてはNPBにおける正当化の要素がまったく存在しない。そもそも選手の待遇は低劣、低廉であり、その他上記①及び②といった必要性も独立リーグにおいては妥当しない。

 

 

3 今後の課題

 野球選手契約というとセ・パ両リーグからなるいわゆる「プロ野球」(NPB)を思い浮かべるが、本稿で紹介した独立リーグの野球選手の立場の不安定性の問題はより一層深刻である。限られた時間で野球選手として結果を出し『プロ野球選手』としてNPBの世界に入ることを夢見てがんばっている独立リーグの若い選手達は、仮に、球団側から理不尽な取り扱いを受けたとしても簡単には声を上げられない構造的問題がある。今後は、労働組合の活用なども検討されるべきではないかと思った。

 

 


[i] 自由と正義45巻11号(1994年11月号)において「特集 プロスポーツを巡る法律問題」と題する特集が組まれており参考になる。

[ii] 川井圭司「プロスポーツ選手の法的地位」成文堂、2003年412頁以下。同書は、プロ野球に限らずプロスポーツ選手の法的地位に関して比較法、歴史を踏まえ包括的に論じられた研究書であり、独立リーグの移籍制限について検討する上でも非常に有益な基本文献である。

 

 

 

 

 

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