「グレイズアナトミー9」
<#13 汚れた血 Bad Blood>
このドラマ、何が深いって、ときによって友情物語だったり、ドキハラ医療アクションだったり、ただのラヴ&セックスだったり、ものすごい社会派な問題提起だったりする。テーマ設定が幅広すぎて、次はどんな問題が投げかけるのか分からないところが魅力なのかもしれませんね。
今回のテーマは「病院にとって、医師にとって、命を救うより大切なことって何?」ということだったと思います。
もちろん、命より大切なものってなかなかない。
世の中に大切なものは数あれど、何事も命あっての物種、つまり命がなければ何にもならないですから。
そして病院は何より命を救う場所であり健康を守る場所、いずれにしろ命が守られてナンボなわけです。
だから、医師にとってだって、原則、命を救うことが一義的に大切だ、ということに異論はないでしょう。
じゃ、果たしてなぜ「病院にとって、医師にとって命を救うより大切なことって何?」なんて命題が出てくる余地があるのかってことなんですが。
今回、我々に二つの疑問が投げかけられたと思います。
まず一つ目は、命より大切にしているものを持つ人のその権利は、命にも増して守られなければならないのか? ということ。
それはドラマの中では「信仰」として表れていますが、人には自分の生き方を自分で決める権利「自己決定権」と呼ばれるものがある、という考え方があります。
これは、かなり限られた場面での話だと思いますし、実務的には細かいガイドラインもあるはずですが、全てが一定の規則で割り切れる、ということでもなく、また現代において、万人の共通認識と言えるものかどうか少し疑わしい面もなくはないように思います。
しかし、日本でも裁判例がありますし、米国においてはより進んでいて、命を救うという大義名分の下であっても、患者が拒否する治療を施してはならず、もし、そういった患者の権利(自己決定権)を侵そうものなら、医師の意図はどうあれ、医師は処分を受けたり、医師免許をはく奪される危険すら伴うものです。
行動チェックカメラのドクター・ボブに向かって、密かにクリスティーナが言っていたように、勝手に輸血をしようとしたインターンのリアの行動は、命を救うべき医師としては「正しい」ものなのです。しかしクリスティーナはリアに対して「あんたは間違ってる!」と強くしかり付けます。クリスティーナも内心、忸怩たる思いなのでしょう。
科学的な倫理観と、信仰というスピリチュアルなものが対立する場面であり、簡単に答えが出せる問題ではありませんが、少なくとも先進国の法的判断の主流は、この自己決定権を認める方向にあります。
もう一点は、病院は命を救うために、そもそもその経営が成り立っている必要がある、ということです。
これはもはや、資本主義の根幹というか、社会体制に関わることで、あまりに問題が大きすぎて、どちらかというと避けて通りたい範疇に入ってしまいそうですが、敢えて少しだけ考えてみたいと思います。
このドラマでも上手に描かれていますが、医師たちは自分たちの使命に夢中です。
シアトル・グレースは救急救命病院だ、ERを閉鎖するなんてとんでもない、命を救えなくて何のための病院なんだ!? 医師たちは異口同音にそう言ったことを叫び、もちろん間違った考えとは言えない、というかその通りなので、視聴者も自然にそれに同意してしまいます。
一方で、コストカッターとして病院経営を救うために雇われた医療管理アドバイザーのケイヒルは、病院の大多数を敵に回しながらも、経営者側の立場でやるべき仕事をやっています。その仕事を「感謝されたことはない」と言いながらも、あくまで病院を存続させるため、彼女はプロとして動いているのです。
そんな彼女に、本来の医師の魂を思い出させようとしたのでしょう、ハントは敢えて救急患者の執刀をさせます。(いいタイミングのところにたまたま彼女がいた、という偶然の要素もありますが)
数年ぶりの執刀で成功を収めた彼女に、患者の家族は涙ながらに強い勢いでハグしながら「ありがとう、ありがとう」と、何度も感謝の言葉を伝えます。
「感謝されたことはない」と言っていた彼女に、最大の賛辞が贈られたわけです。
見ている私も、なるほど、これで"ミズ・コストカッター"ケイヒルも、医師の心、人の心を取り戻してくれる、という展開に違いない、と甘い期待をしましたが、見事に裏切られました。
なかなか思い通りに物語が運ばない、しかもあまり立ち入りたくないような社会問題的領域にまで鋭くメスを入れる、そこが、このドラマの面白いところでもあります。
もちろん、いつも話題がモリダクなこのドラマ、他にも「デレクとエイプリルがER存続のために奔走するの巻」「メレディスの胎児、将来はサッカー選手?の巻」「泥沼を何度も味わってきたアレックスもカリーも14歳少女のマイナスオーラにしてやられるの巻」など、興味深いテーマがありましたが、残念ながら詳細は割愛させていただきます。
それにしてもホントにER閉鎖しちゃうんだろうか?
やっぱ心配です。
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