3ヶ月前、近所に住む90歳オーバーのお婆さんが、近所で拾った1万円札を我が家に降臨させました。

私は対応していなく、対応した妻の話では、お婆さんは「お金なんて、あってもなくても一緒やわ」という悟りの境地に達していた様子。

結局、その後の対応はすべて我が家に丸投げ……いえ、託されることになりました。

真面目な私の妻。
1万円を前にしても「ネコババ」なんて言葉は辞書にありません。
わざわざお婆さんの名義で警察署へ行き、遺失物として届け出を完了。
警察から受け取った書類を手に、「ちゃんとお届けしましたよ」とお婆さんに報告する徹底ぶりです。

するとお婆さん、「私は要らんから、あなたが貰いなさい!」と、なんとも太っ腹なご提案。

ここから、妻の「1万円受領プロジェクト」が幕を開けました。

捕らぬ狸の皮算用、それも特大サイズ


それからの3ヶ月間、妻の頭の中は1万円のことでいっぱいでした。
「お婆さんを車で警察までお連れして……」

「足腰は大丈夫かしら……」と、

もはや介護タクシー並みの献身的なシミュレーションを繰り返す日々。

私も横から、
「君が全部動くんだから、半分もらう権利はあるよね。お婆さんが辞退するだろうから、最初から5000円札を用意して行って、その場で『半分こ』を提案したら?」
なんて、まだ見ぬ獲物の分け前を相談していました。

まさに、ことわざ辞典に載せたいレベルの「捕らぬ狸の皮算用」です。

もし私が自分で拾った1万円だったら?……正直、警察まで行く手間を考えたら、そのまま自分のお財布という「特設シェルター」に保護していたかもしれません。

しかし、今回は「代理人」という重責。金額の多寡にかかわらず、真っ当な手続きを踏まざるを得ませんでした。

そして衝撃昨日。
3ヶ月経っているので、ついに書類を手に「いざ出陣!」と気合を入れ、確認のため警察署に電話をかけた妻。

そこで突きつけられた事実は、予想の斜め上をいくものでした。

「あ、その件ですが。お婆さま、届け出た当日の確認電話で、すでに権利を一切放棄されてますよ」

……なんですって?
お婆さん、あの時すでに「要りません」と断捨離を完了していたのです。

妻はそのことを知らず、3ヶ月間のワクワク、送迎のシミュレーション、そして私の5000円分割プラン。
すべては警察署の電話一本で霧散しました。

「あの3ヶ月間のトキメキを返して!」

そう叫びたい気持ちをグッとこらえ、今日も我が家は平和です。
ちなみに、あの1万円は今頃、国庫という訳の分からぬ名の大きな貯金箱へと吸い込まれていったことでしょう。