万博が閉幕して、もう一ヶ月が経ちました。
最終日、まだ入れていなかったのはオランダパビリオンとヨルダンパビリオン。
全館制覇はとうに諦めていましたが、それでも最後の一日をできるだけ味わおうと思っていました。
閉幕式を見ようとExpoホールへ向かいましたが、一般客は入れないとのこと。
柵の外で「誰か有名人でも来るのかな」としばらく眺めていましたが、知った顔は見つからず、ただ人の流れをぼんやりと見ていました。
そのとき、遠くから太鼓の音が響いてきて、音に誘われるように足が動きました。
アラブ首長国連邦でした。
パビリオンの前では、太鼓を打ちながら踊る人々がいました。
以前カタール館前でも同じようなパフォーマンスを見ました。
その力強い音とリズムを聞いているうちに、ふと「打楽器は人類が最初に手にした楽器なんだろうな」と思いました。
音が、言葉よりも先にあった時代を思わせるような、不思議な懐かしさがありました。
そこへ、別行動していた友人から「アメリカ館でコンサートがある」との知らせが入り、向かおうとしました。
ところが途中、隣のカタール館で「30名限定のイベントがあります」との声が。
“限定”という言葉に弱い大阪人の性でしょうか。思わず参加予約の署名をしてしまい、コンサートを諦めて参加することにしました。
3時から案内されたのは、カタールの王と王子の歴史を描いた80分の映画。
上映会場はパビリオン2階、まるでVIPルームのような特別な空間でした。
窓から下を覗くと1階のパビリオン展示が見えました。
普段は入れない場所にいるというだけで少し得した気分でしたが、王族の物語には正直あまり興味がなく、60分ほどで席を立ちました。
夕方枠で入場した妻から「今、入ったよ」と連絡があり、迎えに行くためもありました。
映画を見れば1階の展示も見られるとのことでしたが、私はすでに3度もカタール館を訪れていたので、そのまま出口へ。
すると係の方が「こちらへどうぞ」と声をかけてくださり、入場待機行列を横目に別の通路から外へ出していただきました。
思いがけずVIP扱いを受けたようで、ちょっとした誇らしさを覚えました。
そのあと妻と合流し、夕暮れの大屋根リンクをもう一度歩きました。
昼間よりも人が増え、リンク下はざわめきで満ちていました。
人の波をかき分け、トイレ横の隙間からなんとかフラッグパレードの後ろ姿を見送りました。
リンクを降りてもなお、あたりは人の熱気に包まれていました。
腹ごしらえにヨルダン館隣のデッカイホットドックを食べに行きました。
そして食べ終えてヨルダン館の前を通りかかると、「通過だけならどうぞ」と自由入場の案内があり、20分ほど並んでようやく入館できました。
最終日にして、未入館だったヨルダン館を訪れることができたのです。
残るはオランダ館のみ。
「もしかしたら、ヨルダンのように入れてくれるかも」と淡い期待を抱いて向かいましたが、結果はダメでした。
それでも暗くなってきて、もう一度足を運んでみましたが、やはり入れず。
そのままそこで花火とドローンショーを眺めることになりました。
オランダ館の前からだと、リンクに上るエスカレーターが少し邪魔で、空が切り取られて見えました。
帰り道、リンク下を通っていると、ヘルスパビリオンのあたりで人が溢れ、動けなくなりました。
まるで時が止まったようで、韓国・梨泰院の事故を思い起こすほどの密集ぶり。
どうやらコブクロがヘルス館前で歌っていたようでした。
本当は「蛍の光」が流れるまで見届けるつもりでしたが、疲れが出て、予定より1時間ほど早く帰ることにしました。
会場を離れるとき、胸の奥が少し空っぽになったような気がしました。
「ああ、本当に終わったんだな」と、ようやく実感が湧いてきて、言葉にならない寂しさが静かに広がっていきました。





















