自閉っ子のための友だち入門 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

社会(みんな)の中で生きる子どもを育む会:著 花風社 定価:1600円+税


    私のお薦め度:★★★★☆


自閉っ子たち、特に高機能自閉症やアスペルガー症候群をもつ子どもたちは、学童期~思春期・青年期になると、友だちがいないことに悩んだり、あせったりすることが多いように思います。


コミュニケーションや社会性に弱さをもつ子どもたちにとって、確かに「友だち」と呼べる相手を作ることは難しいでしょう。最近は、そんな子どもたちのために、友だちを作るためのノウハウ本も増えてきましたが、ここで振り返って、そもそも友だちって必要なのでしょうか? 本人たちは、本当に友だちを欲しがっているのでしょうか?
そもそも「友だち」って呼べる人って、どんな人でしょうか?


そんな、そもそも論にご本人や、支援していただいている方が答えていただいています。
したがって、ハウツー「入門」ではなく、そもそも「入門」本です。


ご本人の立場から寄稿していただいているのは、10月に育てる会で講演をお願いしているニキ・リンコさんと藤家寛子さんです。

そしてやはり岡山まできていただける花風社の浅見淳子社長のインタビューに答えていただいているのは、栗林先生(小学校教諭・中田大地君の先生)、真鍋裕子先生(東京大学教授:当事者)、愛甲修子先生(臨床心理士・言語聴覚士)の3人の方々です。


中でも巻頭にある藤家さんからの寄稿、「気がついたら、友だちがいた」は、当事者の等身大の思いがあふれていて、教えられることも多かったです。


その文の最初にあることば・・・


アスペルガー症候群だと判明して十年近くが経過した。
その間、いろいろな質問を受けるようになったが、中でも頻繁に聞かれたのが「友だちは必要だと思いますか?」というもの。
今の私の答えは、イエス寄りだ。
友だちはいるにこしたことはない。
でも、いなくても死にはしないし、恥じるべきことでもないと思う。


短いセンテンスの行間から、痛いほどせつない思いがもれてくるのが感じられます。

傷つきやすい藤家さんが、学校時代をなんとか乗り切るためにはらった苦労や犠牲は並大抵のものではなかったのでしょう。
またそんな質問が多いということは、「友だち」のいない発達障害の方がそれだけ多いということでしょうね。少なくとも、友だちのいる方は「友だちは必要か?」なんて聞いてこないでしょうから・・・・。


今でこそ、「ただでさえコミュニケーション能力に障害があるアスペルガー症候群の人間が、子ども時代に真っ当な友だち関係を築けるかどうか。 否、である。」と自分で結論づけられる藤家さんですが、子どもの頃は、嫌われまいとすることに必死で、へんにご機嫌をとったり、顔色をうかがったり、戦々恐々とされていたそうです。


なにしろ当時は、「嫌われる」=「危害を加えられる」≒「殺される」というような思いにとらわれていたということです。誰かが、それに気がついて誤解を解いておいてあげれば、もう少し気楽な少女時代を過ごせたかもしれませんね。


でも現実には、先生は「友だちを作りなさい」「友だちがいないことは悲しいこと」・・・
「友だちを作れないのは悪い事」のように、子ども達を追い詰めていくだけであり、そしてその風潮は今も変わらないように思えます。


このあたりを笑い飛ばしてくれるのが、ニキ・リンコさんの

「友だち観の変遷 「教室の備品」から「提出物化」を経て「生身のニンゲン」へ」 の章でしょう。


テレビの子ども番組の司会者は、単に「視聴者」という意味で、「お友だち」って言いますでしょ。学習雑誌では「読者」という意味で使われることもあります。


「お母さんはついて行けないから、お友だちと一緒に行きなさいね」(同級生という意味)と言って送り出しておいて、帰ってきたら「お友だちできたの?」(仲のいい子の意味)なんてきいたりしていませんか。

これだと、同級生とは全員、仲良しなのが当たり前とカンチガイする子がでてもおかしくありません。


確かに、司会のお兄さんは「テレビの前のお友だち、元気ですか!」って呼びかけていますね。

字義通り受けとる自閉っ子たち、一緒にテレビを見ているクラスメイトはみんな「お友だち」、教室の備品のようなものとカンチガイしても当然でしょう。


「ひとつ目の誤解がとけたときの事情 (母から「アンタは性格が悪いから友だちがいないのよ」と繰り返し叱られるうちに、「友だち」には二つの用法があると気付かされる) から、私は、「友だちがいないというのは叱られるネタである」と学びました。

「性格が悪い」ことも、「みんなに嫌われている」ということも。

つまり、「性格が悪」くない、「みんなに嫌われて」いない、と証明して叱られないためには、友だちを見せればいいんだ。「友だち」の提出物化です。


提出物ですから、価値の高いのは仲良くなるのが難しい人、つまり自分のことを嫌っている人や人嫌いで気難しい子、逆に人気者で他に友だちがたくさんいる子、などになってしまうわけです。

ニキさんは、そんな子を「落としてやる」としつこくつきまとうわけですから、疎ましがられたり、よけいにいじめられたりするわけです。


笑ってしまうようなエピソードですが、本人はいたって大真面目、これも文化の違い、誤解や勘違いからくるものでしょう。だったら、やはり誤解を解いて、交通整理をしてくれる人が身近に欲しいです。
「友だちをいっぱい作りましょう」と一律に求めてくる学校の先生にそれが期待できないならば、やはりここは一番の理解者として親たちが担うしかないのでしょう。


藤家「私がひとつラッキーだったのは、友だちに関して、両親からプレッシャーを受けなかったことだ。
合わない人とは無理につきあう必要はない。
ひとりでいることは、別に恥ずかしいことではない。
両親はそういう考えを持っていた。」


子どもたちが大きくなった時、「ラッキーだった」と言ってもらえる親になりたいものですね。


      (「育てる会会報 185号 」 2013.9 よより)


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目次

                       
1 気がついたら、友だちがいた ・・・ 藤家寛子 (作家・販売員)


2 喧嘩、いじめ、そして友情

  子どもがそれでも学校に行く理由とは? ・・・ 栗林先生 (小学校教諭・特別支援教育コーディネーター)


   栗林先生が担任になるとラッキーなのか?
   ラッキーかどうか決めるのは教師ではなく子ども
   教育は現場で起きているんだけど
   今後、国としてはどっちの方向に向かっていきそう?
   学校と人格形成
   学校は社会
   友だちは社会の入り口
   なぜ教師というのは「みんな仲良く」と唱える生き物なのか
   友だちはいた方がいいけれど
   教師の本音に触れてみる
   「みんな仲良く」を発達デコボコの子は誤解する
   友だちは選んでいい
   教師のメンタルヘルスはなぜ・・・
   先生を嫌いな子もいるでしょ
   いじめを紐解いて解決していく
   子どもの発達には「他人の大人」が必要
   いじめている側にはどう働きかけるか
   被害者、加害者、両方に働きかける理由
   障害がある子同士のトラブル
   喧嘩はしてもいい、いじめはだめ
   軽度の子が重度の子をいじめたら
   人工的に不登校やいじめを作らない
   特別支援教育コーディネーターって何者?   
   保護者が制度に対してできること
   健常児による障害理解をどこまで求めるか?
   着るかもしれない服は買わない
   児童と教師、それぞれの家庭の文化
   友だち作ろう作戦はいらない


3 友だち観の変遷

 「教室の備品」から「提出物化」を経て「生身のニンゲン」へ ・・・ ニキ・リンコ(翻訳家)


4 根っこの部分で「人間が好き」だった ・・・ 真鍋祐子(研究者)


   友だちほしいかほしくないか
   教師が抱く望ましい友だち像
   大人の気に入る相手ではなくても
   自分の力で生きていこう
   友だちという言葉の呪縛
   ひとりの時期をプラスにする
   研究職と社会性
   親が臆病でないことはありがたいこと
   小学校一年生から金銭教育を受けた
   他人が右を行けば、左へ行け
   全人的にかかわらなくていい
   人には両面ある


5 友だちほしい人もほしくない人もそれぞれ幸せになれます ・・・ 愛甲修子(臨床心理士・言語聴覚士)


   「友だちいらない」は順調は生育のサイン
   「友だちいなくていいよ」という言葉で安心できる
   それでも友だちほしい人にはどういう発達援助をするか?
   カウンセラーとしてはどういう対応をするか?
   選ぶ力をつけるカウンセリングとは?
   関係性の発達をどうアセスメントするか?
   友だちづくりへの過信?
   友だちいないことと、いじめられること
   友だちをほしがらないことは、勇気のあること
   関係性がどこまで発達しているか身体から見抜く
   かかわり方の資質
   お友だちができた人たち
   大人になったら友だちができる?


6 あとがきに代えて

 自分の社会性を棚卸ししてみる ・・・ 浅見淳子(編集者)


  本書の編集を終えて

  私の社会性を棚卸ししてみる