モーツァルトとクジラ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

ジェリー・ニューポート/メアリー・ニューポート/ジョニー・ドッド:著 

八坂ありさ:訳 NHK出版 定価:1900円+税 (2007年1月)


    私のお薦め度:★★★★☆


本書はアスペルガー症候群を持つジェリーとメアリーの二人が出会い、結ばれ、そして共に生きていこうとする過程を綴った物語です。その意味では、二人の自伝であり、恋愛物語であり、私小説的ノンフィクションと言えると思います。
ただし最初に断っておきますが、実話ですので、全てが明るく幸せな恋愛小説・・ではありません。

めでたしめでたしで終わる寓話でもありません。


日本でも、アスペルガー症候群の子どもたちや青年が、その障害が理解しにくいものであるため、いじめを受けたり疎んじられたり、という話をよく聞きます。ジェリーが生まれたのが1948年、メアリーが1955年ですから、親の私たちと同じ世代です。
当時のアメリカでも、まだ自閉症、ましてアスペルガー障害が理解されているはずもなく、二人は苦しい少年・少女時代を送ることになります。むしる今の日本よりはるかに悲惨な状態だったといえるでしょう。
二人ともサヴァン的能力、ジェリーは数学にジェリーは芸術に・・・でもそれらの能力は彼らの生活を助けるどころか、仲間はずれの要因となったようにすら思えます。


そんな二人が出会い、恋しあい、反発しあい・・・そんな物語です。

内容については、物語ですから、これ以上書くことは控えますが、アスペルガーの方たちの感じ方、考え方を、その生き方のスタイルを知るには絶好の本だと言えるでしょう。
そしてまたアスペルガーの方にふさわしく、その表現方法は生真面目で、性やドラッグ、自殺未遂などに関しても、そこまで書いていいの、と言うぐらい赤裸々に綴られています。


同時に、アスペルガーの方同士の結婚だと、お互いの障害も理解できて理想的なカップルになれるのでは・・・そんな甘いものでないことも正直に書かれています。


結婚生活とはお互い、相手のことを思いやり、お互いを尊重しあってこそうまく行くものかもしれません。そして、相手の感情や心の動きを理解することが難しいのが、アスペの方たちの特性であることも、また確かです。また自分の興味のあることについてしゃべり出したら止まらない、自分の興味に没頭すると周りのこと、相手のことなど考えられなくなるのも特徴の一つです。そもそも社会性に障害を持つこと自体、自閉症やアスペルガー症候群の判定基準の一つでもあります。
そのカップルが最少単位とは言え、夫婦という社会を作って生活するわけです。どんな結果に陥りやすいか、生半可なものでないことだけはご理解いただけると思います。


しかし、自閉症者同士の結婚を勧めることに悪意はないにしても、それは滑稽でおざなりな解決策でしかないと思う。
欠陥をあげればきりがないが、いちばん高いハードルは4対1とされている統計上の男女比ではない。

最大の障害は、自閉症の男女はみな同じように多大な困難を負っているため、伴侶として互いを思いやることが難しいということではないだろうか。たとえ男女比が1対1であったとしても、この問題は残るはずだ。
友だちなら、もちろんうまくいく。しかし結婚となると・・・・・・めったにうまくいかない。 (ジェリー)


たしかに、めったにうまくいかないのですが、結婚生活では傷つけあった経験からでも学ぶことがあるように、愛によって癒されることがあるのも事実でしょう。


わたしたちは、互いを怒らせないという約束を交わしている。自分のしたり言ったりすることがすべて反射的に受け入れてもらえる、と考えるのはまちがいだ。互いへの配慮が必要なのに、以前はそれが欠けていた。かってのように相手の心を踏みつけにするようなまねは許されない。アスペルガーだからといって、瀬戸物屋で暴れる雄牛のように、はた迷惑な行動をとる権利はない。自分たちの力ではどうしようもないことを、わたしたちは受け入れるようになった。
ほんとうに不思議なのだが、自分とは違うパートナーの変わった個性にも、愛があれば耐えられるようだ。 (メアリー)


そしてここで語られる愛とは、夫婦間だけでなく、家族愛の中でも言えるのではないでしょうか。すべて受け入れられると思って、家庭の中で「瀬戸物屋で暴れる雄牛」のような状態の少年や青年の話も聞きます。
彼らが、将来幸せな結婚生活を送ることができるかどうか、そのためには何が必要なのか。それを改めて見直す、この機会に考え直す、そのきっかけとするにもふさわしい本であるとも言えるでしょう。


保護者だけでなく、思春期を過ぎた本人の方たちにも読んでいただきたい一冊だと思います。


        (「育てる会 会報 107号 」 2007.3)


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