『竹取物語』を崩し字で読んでみよう | TOSHI‘s diary

TOSHI‘s diary

Feel this moment...

上代日本語の日記を書くことが多いので、今回は趣向を変えて中古日本語について書きましょう。

それと言語学ネタというより中古日本語を表記する文字がメインになりそうです。

お題は『かぐや姫』としても知られる『竹取物語』です。

現代に出回っている活字で読むわけではなく"崩し字"で書かれた文章です。

あのミミズが這ったあとのような文字のことですね。

現代人の感覚だと汚い字に見えるかもしれませんが、

法則さえわかれば実は意外にも読めるものだったりします。

かく言う私ですが、頻出の文字しか読めませんでしたが(;^_^

 

こちらにその崩し字『竹取物語』の冒頭を載せますね。

 

 

いくつかこういった文書を読んでいると、これらは字が汚いわけではないと理解できるかと思います。

ちゃんと決まった字が同じような形で書かれているのです。

英語でいうところの筆記体のような書き方なので、達筆に見えてしまうようです。

ただ、一つの音を表しているにもかかわらず、何種類も文字が使われている場合があります。

「か」「け」「し」「な」「の」「は」「ま」「み」「り」「る」などなど別の文字で書き分けられています。

例えば「か」は「可」「加」の二文字を崩したひらがなが使用されています。

とはいえ使い分けに上代特殊仮名遣い的な区別があるようには見えません。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、これらは一字一音式万葉仮名の名残だそうです。

現代に至るまでの流れの中で「加」をくずした現在のひらがなの「か」が残ったのでしょう。

補足しておくと、使われなくなった方の「可」を元にした文字は"変体仮名"と呼びますね。

明治時代まで現用のひらがなと変体仮名はごちゃ混ぜになっていたようで、

こうして数種類のひらがなが混ざっている文章は現代人には非常に読みづらいかと思います。

拾い物の画像で申し訳ありませんが、早見表があるのでご紹介しようと思います。

 

 

どうしてこうなったみたいなひらがなも少しばかりありますね(笑)

しかし、これを見ながらだと一気に読みやすくなることでしょう。

元になった万葉仮名と崩し字を、崩し字の文章と比較しながら読むとわかりやすいです。

中古以降は、上代特殊仮名遣いの甲乙は失われているようです。

また『いろは歌』にもあるように、ア行エとヤ行エの区別も消失しているようです。

そして新たに「ん」が生まれ、助動詞などに使われていた「む」などと置き換わっています。

「ゐ」「ゑ」以外は現代の五十音になっていますね。

 

それにしても、ひらがなだけでこんなに文字があったら覚えるのも大変ですよね。

ぶっちゃけ私は半分も頭に入っていませんでしたがw

達筆すぎるというのもあり、よく使われる文字以外は覚えられなかったのかもしれません。

まあ、崩し字の文章を読めたからといって役に立つ場面もありませんでしたしw

 

ではこちらの『竹取物語』冒頭を現代ひらがなに変換してみます。

現代ひらがなですので、二種類以上書き分けられている文字は統一します。

また、一字が意味を持ち、訓読みで読める文字はそのまま漢字で掲載いたします。

 

いまはむかしたけとりの翁といふもの

有けり野山にましりて竹をとりつゝ

萬の事につかひけり名をはさぬきの

みやつことなんいひける其たけの中

にもとひかるたけなん一すちありけり

あやしかりてよりて見るにつゝの中ひ

かりたりそれをみれは三寸はかりなる

人いとうつくしうてゐたりおきないふ

やう我朝こと夕ことにみるたけの中に

おはするにて知ぬ子に成給ふへき人な――

 

始めに載せた原文に合わせているので改行がおかしなことになっていますが、

活字の漢字かな混じり文に変換すると読めなくもないかと思います。

音読する際には濁音もあったようですが、表記の上では区別がないためこのまま掲載します。

 

 

ここからは崩される前の漢字のみの状態、いわゆる万葉仮名に変換してみようと思います。

あの達筆な文字たちが、元々どの漢字だったかがわかるかと思います。

わざわざ万葉仮名にして読みづらくしますので、話半分にご覧いただければと思います。

 

以滿槃武加之多計止利能翁止以不毛乃

有介利野山尓末之里天竹遠止利徒々

萬農事尓津加比遣利名遠波左奴幾乃

美也津己登奈无以比計留其多計乃中

尓毛止比可流太希奈无一寸知安利介利

安也之可利天与利天見留尓津々乃中比

可里堂利曽礼遠美連波三寸者可利奈留

人以登宇徒久志宇天為太利於幾奈以不

也宇我朝己止夕己止仁三流多計乃中尓

於者寸留尓天知奴子尓成給不遍幾人奈――

 

 

当然ですが、先ほどの表にない漢字も多く含まれております。

表にない漢字を挙げてみると「野」「萬」「事」「遣」「其」「我」「朝」「成」といった、

表意文字として使用されている漢字の数々になります。

これらの崩し字も適当に書かれているわけではないので、それについて少し説明いたします。

 

 

例えば文中にあるこの漢字は「其」と書かれた文字なのですが、

『雨月物語』『曾我物語』や『二人比丘尼』(主に近世)にて、

全く同じ文字が「其」の意味で使われているところまでは確認しています。

ということは最初に載せた原文は江戸時代に製版されたものかもしれません。

表意文字として使用される他の漢字の崩し字も、

全く同じ形と意味で使用されている例が多くあります。

 

万葉仮名を崩した文字に関しても表とは違う例外が含まれる場合があります。

 

 

例えばこちらは格助詞の「の」などでたまに使われる「農」なのですが、

上記の一覧表に載っている「農」の崩し字と少し違います。

上の文字はレアケースではありますが、同じく近世の文書に全く同じ文字が見られます。

 

 

画像が小さくて見えづらいかもしれませんがご了承ください。

こちらの文字も上記の一覧表には載っていない文字なのですが、何と書いてあるかわかりますか?

ちなみに私は初見では「を」かと思ったのですが全く違いましたw

 

 

最終手段というか、見当もつかない場合には画像を解析できるサイトを探し出し利用いたしました。

解読不能な文字の画像を貼り付けて、サーチエンジン的なものにかけるのです。

こんな素晴らしいサイトがあるなんて、もっと早く見つけておけば良かったw

 

それはともかく、この「を」みたいな崩し字の正体が判明しました。

「速」が似ているようにも見えますが、答えは「遣」で間違いないようです。

「遣」は一字一音式の万葉仮名で「け」と読みますね。

面影がなさすぎて全く見当もつかない文字が出てくるのも、崩し字の面白いところです。

とはいえ、個人的な手紙などは字のくせが強かったりして、

常用されている文字ですら読むのが困難な場合もあるかと思います。

 

 

それでは最後に私が崩し字で書いた自分の名前を載せてみましょう。

練習もせずに筆ペンで書いただけの崩し字なので、下手なのはご了承くださいまし。

 

 

スイスイとなめらかには書けないものですね~。

私の名前"トシロー"の上二文字"トシ"を崩して書いてみました。

蛇みたいな形の字ですが、変体仮名の崩し字を真似して書いています。

 

今度は現用のひらがなを崩して、さらに筆記体風に真似してみようと思います。

 

 

字が汚いですが、これでも一生懸命書いたので堪忍してくださいw

練習すればまだまだ伸びしろがあると思って温かい目で見守ってあげましょう(笑)

 

 

結局は『竹取物語』の内容に全然触れていませんねw

余談ですが、私は幼稚園生の頃に言われた、

「男の子は流れてくる桃から、女の子は光る竹から生まれてくるんやで。」

という子供だましを本気で信じてしまっていました。

洗脳って恐ろしいですね。それを周りの子たちに自慢げに話して大恥を晒しました。

三つ子の魂百までと言いますが、こういうことは嘘だと知っても頭から離れないんですよね。

 

とまあ、ようやく『竹取物語』の内容とリンクしたところで、今回は以上になります。

最後にしょうもない話をしてしまってあれですが、ここまでお読みくださりありがとうございました。

ではではまたお会いしましょう~。