『萬葉集』を巡る その一 | TOSHI's diary

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テーマをブログにするかどうしようか迷ったのですが、一応言語学にしました。
しばらくはこういった文系ネタをやっていくかもしれません。
 
奈良市や周辺の地域には万葉集の碑文がいくつも点在しています。
その地にちなんで詠まれた歌が、石碑として残されているような感じが多いですね。
 

 

 
こちらは駅や観光案内所などで無料でもらえる万葉集の歌碑マップです。
私は以前に平城京の大路小路を巡る散策をしており、市内の地理には馴染み深い方だと自認しています。
 
余談ですが、私は足が悪いので、行ける範囲がかなり限られている状態です。
ご覧のようにそこそこ広い範囲に点在していますので、何度かに分けて回る予定です。
また、スタート地点から近い順に回るため、順番はマップの番号通りではありません。
ですので、記事が中途半端に終わる可能性があることをご理解いただければと思っております。
 
それでは始めていきましょう。
 

 

 
三条通り沿いの開化天皇陵です。
この近くにある率川神社に歌碑があるとのことでお伺いしましょう。
 

 

 

 
安産祈願のご利益もあるという、かなり歴史の古い神社のようです。
では早速ですけど歌を詠んでみますね。
碑文「はね蘰 今する妹を うら若み いざ率川の 音の清けさ」
原文「波根蘰 今爲妹乎 浦若三 去來率來河之 音之清左」
 
少しぼやきになるのですが、万葉仮名をパソコンで打ち込むのってなかなか面倒ですね(笑)
万葉集を見ながら打ち込んでいるので、まあまあな労力だったりします(^^ゞ
では休憩がてら現代語訳も載せていきましょう。
現代語訳「葉根蘰を新たにする娘が初々しいので、さあと誘う率川の音の清らかなことよ。」
 
「浦」は「心(うら)」という意味だそうです。訓読みの音を借りて表現しているのでしょう。
1300年以上も前からこの地に詠み継がれる歌ですね。
 
とまあ、こんな感じで紹介をしていこうと考えておりますので、温かく見守っていただければ幸いです。
では次に行くといたしましょう。
 

 

 

 

 
油阪にある西方寺に山上憶良の歌が残されています。
碑文「瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ 何處より 来りしものそ 眼交に もとな懸りて 安眠し寝さぬ」
原文「宇利波米婆 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯提斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曽 麻奈迦比尒 母等奈可可利提 夜周伊斯奈佐農」
 
これまた打ち込むのが大変な万葉仮名ですね。
打ち込むのが面倒だから写真の碑文をそのまま見てくれとも思いましたが、まあ頑張って書いてみました(笑)
 
こちらは一字一音式の万葉仮名で、ご覧のように一つの音を一つの漢字で表記する方法です。
万葉集においてはやや珍しい表記法かと思います。
 
現代語訳「瓜を食べる子どものことが思われる。栗を食べるとまして偲ばれてならない。一体子どもというのはどういう因縁によって来た者だろう。目の光にちらついては、私を安眠させない。」
 
さて、こちら西方寺さんにはもう一つ山上憶良の歌がありますね。
碑文「銀も 金も玉も 何せむに 勝れる寶 子に及かめやも」
原文「銀母 金母玉母 奈尒世武尒 麻佐礼留多可良 古尒斯迦米夜母」
現代語訳「銀も金も玉も何の役に立とう。すぐれた宝も子に及ぶことなどあろうか。」
 
山上憶良さんが子どものことを詠んだ歌なのでしょう。
子どもは宝だという考え方は、太古の昔から不変の思想なのかもしれませんね。
 

 

 
大宮通りを春日大社方面へと移動し、登大路までやってきました。
奈良公園では鹿たちも健在でしたね。写真では食事に群がっている様子が残っております。
登大路の辻にも万葉歌碑が建っていました。
 
碑文「見渡せば 春日の野辺に 霞立ち 咲きにほへるは 桜花かも」
原文「見渡者 春日之野邊尒 霞立 開艶者 櫻花鴨」
現代語訳は読んで字の如くということで省略させていただきますね。
 
この歌を読んでいて思い出したのは、私自身も春日の野辺で桜花を満喫した過去でした。
ということで二年前に撮影した春日の桜花を載せようと思います。
 

 
奈良の桜は過去のブログ記事に残っているので、良かったらご覧くださいませ。
 

 

 

 
お次は少し東に進んだところにある氷室神社です。
少しずつ白梅が花開いていて、これまた風情があるように感じられます。
 

 
こちらは新古今集の仁徳天皇の歌ですね。
「高き屋に のぼりて見れば 煙立つ 民のかまどは にぎはひけり」
現代語訳「高き殿にのぼって見渡せば、民家からは煙が立ちのぼっている。民のかまども豊かに栄えているのだ。」
民の繁栄を喜ばれる帝の歌でございますね。
 

 

 
こちらが本題の万葉歌碑。すぐ隣には鹿がいましたね。
大伴家持が詠んだ歌で、やはり春日にちなんだような語彙も見られます。
 
碑文「うらうらに 照れる春日に ひばりあがり 情悲しも ひとりしおもへば」
原文「宇良宇良尒 照流春日尒 比婆理安我里 情悲毛 比登里志於母倍婆」
現代語訳「うららかに照っている春の日に、ひばりが飛びかけり心は悲しいことよ。一人物を思うと。」
明るい歌に見せかけて哀愁漂うようなオチに感じました。
作者が詠んだ瞬間の心境を思い浮かべてみるのも、歌を読む上での楽しみ方かもしれませんね。
 

 

 

 
東大寺に来てみました。
こちらにも歌碑があるということなので、行ってみたいと思います。
 

 

 
が、残念なことに歌碑があるとされる真言院は4月(だったと思ふ)まで閉まっておるそうな。
そういう次第ですので歌碑は撮影できませんでしたね。
代わりに設置されているという歌をこちらに載せましょう。
 
漢字かな混じり文「すめろきの 御代栄えむと 東なる みちのく山に 金花さく」
原文「須賣呂伎能 御代佐可延牟等 阿頭麻奈流 美知乃久夜麻尒 金花佐久」
現代語訳「天皇の御代が繁栄するだろうとて、東国の陸奥の山に黄金の花が咲くことよ。」
 
歌碑が見つからなかったり、閉まっていて見れなかったりすると残念です。
機会はまたいつか訪れると思うので、その時までしばしお待ちくださいませ。
 

 

 

 

 
東大寺の大仏殿の西裏には鹿の群れが大根を食べていました。
その近くに光明皇后の万葉歌碑がひっそりと設置されていましたね。
 
碑文「わが背子と ふたり見ませば いくばくか この降る雪の うれしからまし」
原文「吾背兒与 二有見麻世婆 幾許香 此零雪之 懽有麻思」
現代語訳「したわしい方と二人で見ましたら、どれほどか、この降る雪も嬉しいことでしょう。」
 
歌の感想をいうより再びぼやきタイムです。
「兒」と「懽」の字を探し出すのに苦労しましたね~。
「兒」は「児」及び「子」と同義なのでしょう。「懽」は「かん」と読むのだと変換作業で初めて知りました(笑)
 

 

 

 
東大寺、さらに正倉院を北に行くと五劫院というお寺があり、そちらにも山上憶良の歌碑があります。
碑文「水沫なす 微き命も 𣑥縄の 千尋にもがと ねがひ暮らしつ」
原文「水沫奈須 微命母 𣑥縄能 千尋尒母何等 慕久良志都」
現代語訳「水の泡のように儚い命とて、𣑥縄の千尋のように長くありたいと願い暮らしたことだ。」
尋とは長さの単位で、一尋がだいたい両手を伸ばしたその長さだとされているようです。
 

 

 
春日大社表参道の杜の中にひっそりと佇む二つの歌碑があります。
どちらも山上憶良作で、二つの歌は繋がっていますね。
碑文「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」
原文「秋野尒 咲有花乎 指折 可伎数者 七種花」
 

 

 
こちらがその続きとなります。
碑文「萩の花 尾花葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴 朝貌の花 」
原文「芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝貌之花」
 
それにしても山上憶良さんは多いですね。
今に残る名歌の数々を生み出した私たちの人生の大先輩です。
 

 
春日大社神苑にも歌碑があるということでしたが、現在は閉園中でしたね。
非常に残念な気もしますが、この時期に訪れた自分にも問題があると思います。
しかし、万葉歌碑巡りは良いですよ。絶対に密になることはありませんからね(笑)
万葉歌碑巡りが一大ブームになれば話は別ですがw
 
とはいえ、歌を載せないというのもあれなので、こちらにあるとされる歌碑を掲載しましょう。
漢字かな混じり文「紫は 灰指すものそ 海石榴市の 八十の衢に 逢へる児や誰」
原文「紫者 灰指物曽 海石榴市之 八十街尒 相兒哉誰」
現代語訳「紫の染料には灰汁を入れるものよ。海石榴市の八十の辻に逢ったあなたは何という名か。」
 

 

 
歌碑がある手向山神社を目指す途中で、かわいい二頭の鹿が撮れたので貼っておきます。
春日大社から北東に進んだところにある神社なのですが、こちらも閉まっておりましたね。
境内に歌碑があるらしいので、今回は仕方ありませんが、歌碑の撮影は諦めましょう。
 
こちらにあるとされる歌も紹介しますね。
漢字かな混じり文「秋萩の 散りのまがひに 呼び立てて 鳴くなる鹿の 聲の遥けさ」
原文「秋芽之 落乃乱尒 呼立而 鳴奈流鹿之 音遥者」
現代語訳「秋萩の散りかう中にまぎれて、妻を呼び立てて鳴くらしい鹿の声の遥かなことよ。」
歌にぴったりな鹿がちょうど二頭いたので、ぜひとも歌碑を撮りたかったところですが(;^_^A
 
今回の万葉歌碑巡りその一は、いったんここまでとさせていただきます。
後日続きを紹介いたしますので、もしよろしかったらご覧くださいませ。
 
 
本日の記事は以上になります。
後日、続きを公開しようと思っておりますので、またお付き合いくだされば幸いです。
お読みいただきありがとうございました。
ではでは皆さんまたお会いしましょう~。