曲の途中でカタカタ震える手。
演奏途中で止まってしまった。
何度も途中から弾き直そうとするがうまくいかず、音を間違える。
何とか最後だけ弾いて、立ち上がって真っ青な顔でピアノに背を向けてお辞儀をする。
長男が、今年は先生の勧めもあり、難しいコンクールにチャレンジした。
予選はギリギリ通過し、そこから1ヶ月半で本選。
譜読みが苦手だか、2週間位でひと通り弾けるようになった。
いつもとは違う先生からのレッスンを受けたり、
何度もレッスン室を借りて練習した。
モチベーションが保てない時もあったが、驚く程に練習していた。
本番直前の練習まで、一度も楽譜が飛ぶ事はなかった。
そして迎えた本番の日。
息子は緊張していた。
しかし順番が回ってきて、弾き始めると、
いつも通りとてもいい音が出ている。
安心しながら聞いていると、曲の半分に差し掛かる所で突然に音が消えた。
演奏が終わると舞台袖に急いだ。
息子にかける言葉はみつからないけれど、
とにかく側にいたかった。
もう小さくないから、
思いっきり泣いたり、親に感情をぶつける事もできない。
「お母さん、泣いた?」
息子の一言目だった。
私が頑張らせすぎたかもしれない。
緊張をもっと和らげる努力をすべきだった。
後悔が駆け巡る。
それから、話し合って、結果を受け取らずに2人で帰った。
後日送ってもらった講評。
審査員の先生からは、激励と息子の音楽を評価する言葉が並んだ。
息子はそれを見て安堵した。
そして再びピアノへ向かい始めた。
練習が足りないから止まったのではない。
たくさん努力したからこそ、望む所に手が届く気がしたからこそ、恐怖心で緊張が襲ったのかもしれない。
ピアノの演奏が止まったその時、何をしてあげられるのか、正解はわからない。
息子は美味しいものを食べ、たくさん運動をして、
好きな映画を何回も見て、LEGOを触りながらボーッとして、
消化した。
そしてなぜか歌劇を見始めた。
丸1週間経過して、
ピアノを楽しんで弾く姿が戻った。
時々コンクールで弾いた曲もふざけて弾いている。
練習は裏切る事があるという話。
しかし絶望から救ってくれたのも、音楽でした。