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落語探偵事務所

落語・講談・浪曲、映画、囲碁・将棋、文学、漫画、その他備忘録を兼ねて綴ります。読みたい本、観たい映画、聴きたい落語、並べたい名局、たくさんあります。書き過ぎでネタバレするかもしれないのでご注意ください。


松本清張『神と野獣の日』角川文庫、2008年(初出1963年)。

松本清張が初めて書いたSFといわれている小説です。

昨日の未明に隣国からまたもミサイルが発射されたという報道を見て、本書を手に取りました。

日本から2万キロ離れたZ国から5メガトンの核弾頭ミサイル5発が東京に向かって誤射されてしまい、「あと43分で着弾(後にプラス54分と修正される)」という情報が首相にもたらされてから、政権中枢・警察・軍・一般国民が大パニックに陥る様子を描いています。

米軍機で首相や官房長官は大阪に移動し、そこから全国民に対して情報を発信…。
とにかく人々は東京から逃げるが、交通機関はマヒ…。
警察と軍は治安維持の任務が与えられるが、3分の1以上が任務放棄し逃亡…。
人々の一部は暴徒化…。
などなど…。

女性週刊誌に連載されたということが信じられないほどエグい内容になっています。

「筒井康隆の世界に類似している」「ジョークのない筒井康隆ワールドか?」というのが第一印象です。
というか、この作品にブラックジョークを塗(まぶ)せば「筒井康隆ワールド」そのものかもしれません。

松本清張が描く本作品に全くブラックジョークがないわけではなく、着弾までの残り数分間にはテレビ・ラジオで何の音楽を流すかで思案する(国家にするかとか、子守唄にするかとか揉めたあげく、結局、童歌(わらべうた)を流すことになる…)といったネタもあることにはありますが…。

松本清張の作品としてはかなりの珍品だと思います。
興味のある方はぜひ一読を。

(追記。この作品は1963年に連載されたのですが、1962年10月~11月のキューバ危機を受けて状況という、今から考えれば信じられないほどの核戦争勃発の危機感があったからこそ生まれたのでしょう。この夏以降に“Jアラート”が2回鳴り、1時間ほどの短時間ではミサイルの着弾から逃げきるのは難しいことを知ってしまったため、大パニックが起きる前に着弾の時間が迫るのが現実でしょうから、今の私たちにとっては、本作品のリアリティは初出当初よりはかなり薄くなっていると思います)。