力水教授が退席してからすでに10分が過ぎようとしていた。
その間、誰も口を開こうとはせず、冷え切ったコーヒーをかき混ぜる者や、腕組みをして目をつぶったままの者もいた。
この場の重苦しい雰囲気にイチバンに耐え切れなくなったのは、赤石 蒼だった。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと~!皆さん黙ったままじゃ、すぐに30分が経って力水教授が戻ってきちゃいますよ?お互いの意思確認みたいなの、しときましょうよ」
「そうだな。オレはみんながみんな闘う気持ちでいるものだと思っていたんだが、また違う考え方の者もいるまもしれないし、今までお互いに話し合うこともなかったからこの機会に意見交換するのは悪くないな」
向岸 渡は腕組みをしていた筋肉質な二の腕を解くと、早速自分の座っていたところのテーブルを軽々と持ち上げ、他のテーブル同士でくっつけはじめた。「さあ、みんな集まって。これで話しやすくなった」
向岸にならって、他のみんなが椅子を抱えながらまとめられたテーブルに座りなおした。「さ、みんな集まったところで時間もないんで軽く自己紹介しときましょう。っと、ぼくの名前は赤石 蒼と言いまして、印刷関係の会社員です。で、ここに集合する前は某病院で余命宣告をされた上で脳死判定を受けまして、臓器提供するところだったのを力水教授に拉致されまして、何故か赤いヘルメットをかぶった状態で意識を取り戻したし次第です。それと彼女が―――、不治の病です。次はブルーさんお願いできますか?」
「そうか、ブルーってのはオレだな。オレの名前は向岸 渡。妻子持ちの消防士だ。休みの日に火災現場に遭遇して人命救助したところまでは覚えているんだがその後の記憶が曖昧で、気付いたら青いヘルメットをかぶってベッドに寝かされていた。自分の頭の傷を確認した具合ではかなりの大怪我らしい、しくじった。それと…息子が小児脳梗塞で入院中だ。さて、次は誰にする?」
「今度は私が自己紹介させてもらいますよ。名前は椎名 琢磨と申します。実は、元は婿養子で椎名という苗字は前妻のものでして、今はバツイチです。子供はおりません。ピンクのヘルメットをかぶったいきさつは私自身も説明ができないのですが、腹痛で病院に運ばれた後に目が覚めたらこの通りでした、なぜか。それと、これは離婚する直前に偶然知ってしまったことなんですが、私の母親が飲んでいた抗がん剤と同じものを前妻が飲んでいたので、私は彼女が隠したつもりでいる病名を知りながら、離婚いたしました」
「次、俺いかせてもらいます。名前は川辺 遊っす。高校出たての19で、自分は体のどこも悪くないんですがオヤジに騙されて大学病院に検査入院させられた挙句の果てにグリーンのメットをかぶらされてました。正直、意味わかんねえっす。あ、ちなみにお袋は難病指定を受けてて、けっこうヤバめっす」
「最後はアタシね。アタシの名前は家中 ホコリ。このイエローのヘルメットはみんなと同じく生命維持を目的にかぶってる。それと、アタシが女性ってこと以外にみんなと違う点は、力水教授とは一年前からの知り合いってことかしら。ついでに言っておくけどキレイ好きよ。どーぞ、ヨロシク」
各々、簡単な自己紹介が終わったところで気付いたのは、5人ともに強制的であったにしろ、ヘルメットという生命維持装置が必要なことと、身近な人間にもまた、一筋縄ではいかないような病魔が巣くっていることか。
そろそろ、力水教授が戻ってくる時間になろうとしていた。最終的な決断をしなければならない。
向岸が手を挙げながら言った。
「よし、それじゃあ挙手制でいこう。一度は失った命を、大切な者のために懸けられるか?
つまり――、闘う覚悟はあるか?」
皆それぞれ、想うところはあるに違いない。
それでも一瞬の間を置いて、一斉に手を挙げた。
ただひとり、椎名 琢磨を除いて。