ありがたき幸せで、なにとぞよろしく・・
ご隠居 どうしたんだい、やけに丁寧な挨拶じゃないかい
八 ええ、あっしもね今年から親方になるんで、すこしは貫禄と言うか威厳と言 うか、かっこつけって言うか。・・おのうの方よろしいか、今日から親方と よんでくれまいか・・はっはっはっ・・いざ出陣じゃ~
ご隠居 古いね~忠臣蔵の大石内蔵助かい長谷川一夫だろ。もう歳は明けてんだよ
八 ならば切腹じゃ~
ご隠居 さっさとやっちまいな。包丁貸してやるよ。
八 その前に今生の別れにササを所望する。
ご隠居 そんなことだろうと思ったね。じゃなにか、お前さん弟子をとったのかい。
八 さよう、たとえ一人と言えど上に立つ身、以後親方の道をまっすぐに大工の 誉となりまする。
ご隠居 まだ、言ってるよ。それでその弟子ってのはまだ若いのかい。
八 ええ、歳は27歳で、郷里は信濃の上田です。縁あって今年から弟子に
ご隠居 そうかい、じゃ住まいは、
八 それが、あっしの屋敷に・・
ご隠居 お前さんの屋敷たって四畳半2間じゃないか
八 そうなんすけどね、隣の離れにとは考えたんですけど
ご隠居 物置かい。狭すぎるだろ
そこへ熊さんがやってきます。
熊 ご隠居さんおめでとさんで・・まだお達者でなにより
ご隠居 まだは余計なんだよ。じゃ二人とも中へ入ってお屠蘇でも
熊 待ってました。今年はすばやいね、ご隠居。いい事でも有りましたか。
ご隠居 今聞いたんだが、八っあんが親方になるてんで、正月早々おめでたいね
熊 ああ、それ聞いたよ。八っあん。なんでも女の弟子なんだって。
ご隠居 えっ 女の弟子だって、驚いたね八っあんそりゃ本当かい。
八 それがそのとうりで
ご隠居 女房と別れたって話は聞いていたが、女弟子とはねえ・・その手があったか
そうかい大家と言えば親も同然店子と言えば子も同然だ。わかった何にも訊 かない。八っあんもいい男だ、野暮なことは言わないよ、いろいろ訳があっ てのことだろう。しかしそんならそれで形だけでもお披露目をして
八 ありがてえ言葉を言ってくれるね、涙が出るよ。かかあが死んでもう3月・・
熊 まだ死んじゃねえよ。昨日神田の髪結いで見かけたよ、あれは幽霊かい
八 うるさいんだよ、俺の中では死んでるだい。別れた日からカンナで削るよう に思い出を削ったんだ。ご隠居さん、これには訳がありまして・・
熊 おっとっと、その前にお屠蘇に挨拶してからね。ゆっくり聞こうじゃないか 八っあんの浮気ばなし
八 うるさいんだよ、最近でしゃばりすぎじゃねえか、さっさと山で冬眠してな
さもないと鉄砲で駆除されるぞ
熊 あっと驚く熊五郎・・
八 古すぎだろ、それを言うなら ♫熊ちゃうな~・・
熊 八っあんなんだか楽しそう
ご隠居 二人ともそいじゃ座敷に上がって一献やりましょう
というわけで三人が座敷に上がって酒を酌み交わします。
八 ・・そういうわけでな、長野の善光寺の大普請を手伝いに行ったわけよ、そ こで下働きをしていたのが棟梁の親戚の娘でね。大工仕事も手伝って・・
熊 ちょいと見初めた味噌屋のソメコ、三十路のまえの大年増
♫君にはきみの~ゆめがあり~ 僕にはぼくの~ゆめがある~
熊、八 ハモリながら
♫ふたりの~ゆめ~をかさねれば~・・・
ご隠居 なんだい、どうしたんだい、もう酔ってるのかい
紅白歌合戦はもう終わってんだよ。
八 そうなんですよ、山本さん
今年はたっぷり人情噺を聞いてもらおうかと思っていたんですがね,
熊のじゃまが入ってどうにもならねぇ
熊 そうなのかい、じゃゆっくり聞きましょう、ただし落ちだけな
八 分かってねぇや、本筋があって落ちがあるんだよ。はねがあって蝶々だろ、
赤とんぼのはねがなければトウガラシだよ、それを干したら柿の種だ。
熊 柿の種が好きなんだ。
八 それでいつも柿の木にぶらさがっているのかい
熊 熊っちゃうな~♫
八 ひとのネタ盗るなよ、もう蹴っ飛ばしてやろうか
熊 八っあん今年は何年かな
八 うま年だ
熊 お後がよろしいようで
八 まだ何も言ってねえ、おい、おい、なんでこうなるんだよ
熊 また来年ね
八 ご隠居さん、なんか言ってくれよ
ご隠居 おのうの方切腹じゃ
八 もう歳だこりゃ
