9月はスケジュールが混み合っていて日生劇場には行けませんでしたが,地方公演も終盤に近くようやく愛知県芸術劇場でミュージカル『ラグタイム』を観劇する機会が巡ってきました。先週東京で観劇したミュージカル『アナスタシア』とまったく同様に,テレンス・マクナリーの脚本,スティーブン・フラハティの音楽,リン・アーレンスの歌詞による作品です。ミロス・フォアマン監督による1981年の映画『ラグタイム』も丁寧に作られた作品でしたが,ミュージカルとなってどのような蘇りを見せるのか楽しみです。20世紀初頭のアメリカ社会に生きた人々を描くことで,現代まで続くアメリカ社会の光と陰の源泉を見つめ直すことができるでしょう。Stephen Flaherty & Lynn Ahrensのコンビなので,物語の内容もさることながらバリエーションに富んだ楽曲に期待しています。井上芳雄さんがジャズ系の楽曲をどのように歌いあげるのでしょう?安蘭けいさんが演じるピューリタニズムに基づく正義と博愛精神にあふれるマザーの役にも心を揺さぶられそうです。
奴隷制から解放されても社会の底辺に押しやられて理不尽な差別の中で生きるアフリカン・アメリカン,東欧から貧困や差別を逃れて移民としてアメリカに渡り一攫千金を夢見るユダヤ人,産業のリノベーションを起こし急激に富裕層となった起業家,経済的繁栄の恩恵に預かれない労働者階級の白人層など,現代社会の混乱の縮図がすでに20世紀初頭から萌芽していることがこの歴史ドラマで描かれており興味は尽きません。混沌とした社会と多様な価値観が交錯するなかで,いかに生きるための希望を見出してゆくのかじっくり考えてみたいと思います。