高知県を舞台にした2023年4月からの朝ドラ『らんまん』の話題を取り上げたが,牧野富太郎が生まれた頃に活躍した土佐の偉人といえば誰もが坂本龍馬の顔を思い浮かべるであろう。薩長同盟の締結や海援隊を指揮して海運業を志したことなど,幕末維新での一定のパイオニア的な役割は認めるものの,大政奉還や倒幕後の新政府の施政方針についてまとめた「船中八策」については龍馬本人が生前に構想して書き上げたという具体的な証拠がないため,明治期以後に坂本龍馬の偉業を誇大に喧伝するために創作されたと言われている。
「船中八策」という史料の歴史学的な見直しを含めた日本史Aの問題が大学入試センター試験の追試問題に掲載されていたので下記に引用した。日本史の教科書から坂本龍馬の名前が消えるのではないか,という議論が一時取りざたされたが現状はどうなのであろう。
学生時代は世界史ばかり勉強していたので,日本史の試験問題はとても新鮮である。
以下,問題文を引用。
2022年日本史A追試験問題(第2問)
次の文章は,幕末維新期に活躍した人物たちについて関心のあるアカネさんとタケルさんとの会話である。この文章を読み,後の問い(問1~4)に答えよ。(史料は,一部省略したり,書き改めたりしたところもある。)(配点 12)
アカネ:歴史を題材にしたドラマや小説の中でも,(a) 幕末維新期に活躍した人物を主人公にしたものは,人気があるよね。
タケル:そうだね。例えば,土佐藩出身の坂本龍馬は,歴史ドラマなどでもよく取り上げられる人気の人物だよね。
アカネ:だけど,龍馬は1867(慶応3年)年11月に暗殺されていて,その後の明治維新の歴史には関わっていないよ。なのに,なぜ人気が高いのかな。
タケル:龍馬といえば,薩摩藩と長州藩との同盟を仲介したことが有名だけど,その外にも,海援隊という組織を率いて,海運や (b) 貿易の事業にも携わったと言われているよ。
アカネ:なるほど,政治や経済など,様々な分野で活躍をした人物だったと言えそうだね。
タケル:龍馬の活躍と言えば,1867年6月に作成された「 (c) 船中八策」も,後の明治日本の国家構想につながったと言われているよね。
アカネ:その「船中八策」だけど,この史料については当時の原本が確認されていないこともあり,歴史学でも議論が続いているようだよ。
タケル:それは,とても興味深いね。龍馬に関する研究で言えば,1883年に連載が始まった龍馬を主人公とする小説「汗血千里の駒」は,龍馬を通じて,高知の自由民権運動をアピールしようと (d) 政治小説というジャンルだと説明する本を読んだことがあるよ。
アカネ:そうなんだ。その小説の事例のように,歴史を題材にしたドラマや小説などの作品は,のちの時代の価値観が反映されている場合が少なくない,ということに留意して鑑賞したほうが良さそうだね。
問1 下線部(a)に関連して,幕末維新期に活躍した人物やその人物が行った事柄について述べた次の文X, Yと,それに該当する語句a~dとの組み合わせとして正しいものを,後の(1)~(4)のうちから一つ選べ。
X 司法の整備に尽力した江藤新平はこの乱の首謀者となったが,乱の鎮圧後,処刑された。
Y この人物は,初代文部大臣として,いわゆる学校令の制定に携わり,学校体系の整備に努めた。
a 佐賀の乱 b 萩の乱
c 森有礼 c 加藤弘之
(1) X-a, Y-c (2) X-a, Y-d
(3) X-b, Y-c (4) X-b, Y-d
問2 下線部(b)に関連して,幕末から明治期までの日本の貿易に関して説明した次の文I~IIIについて,古いものか年代順に正しく配列したものを,後の(1)~(6)のうちから一つ選べ。
I アメリカをはじめ,欧米の5か国との間で,日本の関税自主権の欠如などを内容とする条約が締結された。
II 諸外国との間で輸出が増大したことに対応し,生糸・雑穀・水油などの横浜港直葬を禁じる法令が発せられた。
III 朝鮮との間で,釜山など3港の開港を定めるとともに,日本の領事裁判権を一方的に認めさせる条約が締結された。
(1) I-II-III (2) I-III-II (3) II-I-III
(4) II-III-I (5) III-I-II (6) III-II-I
問3 下線部(c)に関して,次の史料は「船中八策」であり,後のメモは,アカネさんとタケルさんが,この史料について気になった点をまとめたものである。この史料及びメモについて述べた後の文X, Yについて,その正誤の組み合わせとして正しいものを,後の(1)~(4)のうちから一つ選べ。
史料
一,天下の政権を朝廷に奉還せしめ,政令宜しく朝廷より出ずべき事。
一,上下議政局を設け,議員を置きて万機を参賛せしめ,万機宜しく公議に決すべき事。
一,有材の公卿諸侯及び天下の人材を顧問に備え,官爵を賜い,宜しく従来有名無実の官を除くべき事。
一,外国の交際広く公議を採り,新に至当の規約を立つべき事。
一,古来の律令を折衷し,新に無窮の大典を選定すべき事。
一,海軍宜しく拡張すべき事。
一,御親兵を置き,帝都を守衛せしむべき事。
一,金銀物貨宜しく外国と平均の法を設くべき事。
(『坂本龍馬全集』)
メモ
・「船中八策」は1867年6月9日作成とされるが,その時に作成された原本は確認されておらず,坂本龍馬に同行していた海援隊書記の長岡謙吉が記した日誌にも,「船中八策」に関する記載はない。
- ・1883年に『土陽新聞』紙上で連載が始まった坂崎紫瀾の小説「汗血千里の駒」では,「船中八策」の存在について触れていない。
- ・1896年に弘松宣枝が著した坂本龍馬の伝記『阪本竜馬』では,「船中八策」に文言も内容もよく似た文章が初めて紹介されたが,条文の数や細かい文章表現は,上の史料と異なる部分がある。
X 史料では,議会の設置や法典の整備が求められており,実際に明治新政府は,政体書によって将来的な議会設置と立憲政体確立とを宣言した。
Y メモからは,「船中八策」は1867年6月の時点で作成されておらず,龍馬の死後に,龍馬の史料として作成された可能性がうかがえる。
(1) X-正, Y-正 (2) X-正, Y-誤
(3) X-誤, Y-正 (4) X-誤, Y-誤
問4は省略
