スペインを題材にした舞台の掉尾にふさわしいミュージカル『ELPIDIO(エルピディイオ)』 | to-be-physically-activeのブログ

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 雪組ニューウェーブとして下級生時代から注目を浴びてきた娘役さん4名(野々花ひまり,彩みちる,有栖妃華,潤花)ですが,それぞれが活躍の場を与えられて頼もしいかぎりです。組替えで宙組娘役トップになった潤花さんは残念ながら来年で退団を発表していますが,上級生世代になって月組に移籍した彩みちるさんの活躍にはいつも目を細めています。

 12月7日に梅芸シアター・ドラマシティで,鳳月杏さん主演のミュージカル『ELPIDIO(エルピディイオ)』~希望という名の男~(作・演出・振付/謝珠栄)を観劇する機会を得ました。彩みちるさんは月組移籍後4作品目にして準主役のパトリシア(アルバレス侯爵の妻/詩人ロレンシオの恋人)を魅力的に演じました。これまでのコケティッシュなキャラクターを封印して,貴婦人の役を丁寧に演じる彼女の姿は新鮮でした。イタリアのジェノバから保守的なスペイン貴族の家に嫁ぎながら,鳳月さん演じるロレンシオの生き方に共鳴し,男女同権と自由平等という時代の流れに希望を託しながら貴族としての殻を破って生きようとするパトリシアにシンパシーを感じました。

 物語の舞台となっているのは20世紀初頭のスペインでした。19世紀末のキューバの独立運動や1898年の米西戦争での敗北を機に,植民地帝国としての栄光と繁栄を誇ったスペインは衰退の道を辿ります。旧弊な王政は衰退し,不安定さを増した社会の状況のもとで政党政治は腐敗し,無政府主義的な思想の台頭や過激な労働運動が激化しスペイン人社会は先の読めない時代に翻弄されます。唯一残された植民地であるモロッコでも民族運動が盛んになり,軍部は反乱鎮圧のためにスペイン各地から予備役の兵士を召集しようしますが,それに反発した民衆と政府軍との間の衝突の結果起きたのが1909年のバルセロナの「悲劇の一週間」でした。

 バスク,カスティーリャ,カタルーニャなど独自の文化と伝統を誇る多様な民族で構成されるスペインでは,国家への忠誠や政府への従属よりも個人としての権利や家族としての絆は何ものにも変えがたい価値を有します。混沌とした時代にあっても自由と平和への憧れの気持ちを抱いて明るく生きようとするマドリードのバル「カミーノ」に集う仲間たちを千海華蘭さんやきよら羽龍ちゃんが情感豊かに演じてくれました。副組長に就任してひときわテンション高い演技をみせた白雪さち花さんにも拍手を送りたいと思います。謝珠栄先生の演出と振付ですので,地方色豊かなスペインの舞踊やロマの踊りも十二分に楽しめました。

 今年の宝塚は多くの組でスペインを題材にした舞台やショーが展開されましたが,ミュージカル『ELPIDIO(エルピディイオ)』はその掉尾を飾るにふさわしい希望に溢れた作品だったと思います。