『Unrequited Love マクベスを殺した男』〜珠城りょうさんの新たなジャンルへの挑戦, | to-be-physically-activeのブログ

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 ところざわサクラタウン(埼玉県所沢市東所沢)のジャパンパビリオン ホールAで催された朗読ミュージカル『Unrequited Love マクベスを殺した男』。脚本と演出は斎藤栄作さんです。斎藤さんといえば,個人的に英語の勉強のためにラジオで聴いているNHK講座「Enjoy Simple English」の原作者でもあり,とても親しみを感じます。ラジオ講座では“シャーロック・ホームズの世界”を監修されていますが,今回の朗読劇ではシェークスピア原作の『マクベス』に着想を得たオリジナル脚本を提供してくださいました。

 

 『マクベス』は誰もが知っている4大悲劇の一つです。しかし私自身は戯曲や演劇として『マクベス』を鑑賞した経験がなかったので,往路の電車の中でWikipediaから印刷した登場人物の紹介と筋書きだけをにわかに勉強して今回の朗読劇に臨みました。まったく予備知識がなくても楽しめますが,マクベスとバンクォーの関係やダンカン王を弑逆するにいたった理由などをあらかじめ知っておくと,原作と今回の創作劇との違いがわかって理解が深まりました。

 出演は珠城りょうさん,高橋愛さん,千葉翔也さん,宮菜穂子さんの4名だけですが,経歴の異なる出演者の組み合わせが功を奏して,それぞれの個性と持ち味が発揮され見応えのある朗読&ミュージカル劇が展開されました。ちなみに備忘録としてそれぞれの役割を台本から抜き書きすると,

 

 漫画家 桜庭あきら(珠城りょう)

   ・・・バンクォー/魔女1

 編集者 槙田英恵(高橋愛)

   ・・・グロッホ/フリーアンス/魔女2/伝令

 英恵の弟・YouTuber シンジ(千葉翔也)

   ・・・使者/マクベス

 チーフアシスタント・あきらの姉 桜庭光子(宮菜穂子)

   ・・・語り/従者/ダンカン/魔女3/暗殺者/医者

(・・・以下は劇中劇「Unrequited Love」での役割)

 

 特に今回の朗読劇の前半は,シェークスピア原作の『マクベス』の登場人物であるバンクォーとその妻グロッホを主役に据えたマクベス外伝または前日譚に近い物語として構成されており,とても新鮮に感じました。どちらかというと,主役はマクベスやバンクォーではなく,二人の男性によって運命を翻弄されるグロッホじゃないか,と見終わってから感じました。それだけ高橋愛さんの好演が光っていたということです。

 

物語の概要

 スコットランドの片田舎の荘園領主の妻として愛する夫と子供とともに平凡な人生を歩みたいと願うグロッホ(高橋愛)に対して,血筋や王位継承へのこだわりや野心を捨てない野心家の夫バンクォー(珠城りょう)。ふたりの長男の誕生をきっかけに,いつしか運命の歯車が軋みを起こし始めます。スコットランドを支配する暴君マルカム2世により夫と妻子は引き裂かれることになります。

 十数年の時を経て平和を取り戻したかのようなスコットランドでしたが,新たに王位継承者となったダンカン(宮菜穂子さん)に仕える封建領主に出世したバンクォーは,敵方に囚われの身となっている元妻グロッホと実子フリーアンスを取り戻そうと奔走します。しかしその過程で彼らの運命をさらなる混乱に導くトリッキーな男マクベス(千葉翔也)が出現します。ダンカン王の従弟であることを盾に,マクベスはグロッホを妻にしてしまいます。これにより王位継承をめぐる新たな争いの火種が生まれ,再び血塗られた権力抗争に発展します。

 三人の魔女の登場以降は,原作『マクベス』のストーリーを潤色した展開となります。世間知らずのマクベスをそそのかしてダンカン王の弑逆に加担したグロッホですが,みずからの手を血に染めるような陰謀に巻き込まれた運命を呪い,身分不相応な野心で家族を犠牲にした元夫であるバンクォーに恨みごとを言いながら狂死するまでが描かれていました。

 さてここから先,バンクォーとマクベスはどのような運命に導かれていくのでしょうか?ということで劇中劇の『マクベス外伝』は唐突に終幕になります。

 いきなり現実の漫画家のアトリエの場面に引き戻され,結局ここまでの劇中劇は漫画家・桜庭あきら(珠城りょう)の新作『Unrequited Love』のエピソード1の原案創作の過程だったということで,出演者一同は素に戻りほっと一息。エピソード2以降も乞うご期待という含みで朗読劇は解散終演となりました。

 

 なんだか消化不良になりそうなお話でしたが,マクベス外伝としてはよくできたストーリーでした。今後連載物でエピソード2が登場するかも,という含みを残す終わり方も漫画や劇画の創作過程をテーマにした作品ということであれば納得できます。

 いずれにしても通常の朗読劇と違い,お芝居にミュージカルの要素もブレンドされたハイブリッドな舞台作品として斬新であり,珠城りょうさんとしても新たなジャンルの開拓と挑戦に取り組んだだけの成果はあったかなと思います。帰宅してから改めてシェークスピア原作の『マクベス』をダウンロードしました。物語の顛末がどうなるのか興味が湧いてきました。