3月21日は大劇場に雪組公演『夢介千両みやげ』『Sensational!』を観に行くので,山手樹一郎さんの原作本『夢介千両みやげ(完全版,下巻)』(講談社文庫,2022)を読んだり,ホームページに公開されている「演出家中村一徳が語る ショー・スプレンディッド『Sensational!』の見どころ」などに目を通したりしながら,あわてて予習しています。3月19日の新聞各紙のウェブ版にも初日の様子が舞台写真付きの記事で紹介され参考にさせていただきました。
原作本の解説は,書評家の細谷正充さんが執筆されていて,著者である山手樹一郎の業績や『夢介千両みやげ』が書かれた時代背景などがくわしく紹介されていました。
細谷さんの解説から引用すると,
「山手作品の持つ庶民的なイメージと華麗でゴージャスな宝塚のイメージは,深いところで通じ合っている。どちらも,大衆に明るい夢を与えることを目的としているではないか。また,宝塚のモットーである『清く,正しく,美しく』は,そのまま山手作品にも当てはまる。なるほど,山手作品を原作に選んだのは炯眼といっていい」(一部改変)
と述べておられました。
作家・山手樹一郎は戦前は『桃太郎侍』などの伝奇小説や『華山と長英』などの歴史小説を発表していたそうですが,戦後は一転して庶民のための娯楽時代小説を執筆し,戦後の混乱で疲弊している庶民に,いっときの夢とユーモアによる癒しを与えるために“夢介”という人物造形を創作したのだとも書かれていました。気は優しくて力持ち,あくまで非暴力に徹して正義を守り抜こうとする倫理感,社会的弱者に対するいたわりの精神に溢れている点が,夢介を夢介たらしめている性格的魅力でしょうか。男としても,愛する女性のくちびるは奪ってもそれ以上の肉体関係は求めない潔癖さと度量が,『清く,正しく,美しく』という規範にぴったりのような気がします。
行きの列車の中でも,人物相関図を参考にしっかり原作本を読み進めたいと思います。上巻は電子版で読んだのですが,なかなかの長編であり下巻はまだ第13話で停滞しています。夢白あやさんが演じる蕎麦屋の娘で春駒の付き人の“お糸ちゃん”は,原作本では“お米ちゃん”の名前で登場しているような気がしますが・・・・,
「そんなことは,むりに考えないでもいいだ。小説は小説,お芝居はお芝居として楽しむ,それでいいだよ」
と,やんわり夢介さんにたしなめられそうです。