香炉峰の雪
香炉峰下、新たに山居を卜し草堂初めて成り、偶東壁に題す
香炉峰の麓に 新しく家を建てようと
土地を購入し 吉凶を占う
草堂が完成してしたばかりなので
東の壁になんとなく詩を添えた
日高く 睡り足りて 猶ほ起くるに慵し
陽は高く昇り 充分眠ったが
やはり起きるのはだるい
小閣に 衾を重ねて 寒を怕れず
小さな二階建ての草堂で
布団を重ねて寝ているから寒くない
遺愛寺の鐘は 枕を欹てて聴き
遺愛寺の鐘の音は 横になったまま
枕から頭を浮かせて耳を欹てて聞いて
香炉峰の雪は 簾を撥げて看る
香炉峰の雪は 簾をあげて眺める
匡廬は便ち 是れ名を逃るるの地
盧山こそは名声や地位を避けるのに
相応しい地である
司馬は仍ほ 老を送るの官為り
司馬(閑職)もやはり余生を送るに
相応しい職である
心泰く 身寧きは 是れ帰する処
心身共に穏やかに過ごせる場所こそ
安住の地であろう
故郷 何ぞ独り長安のみに在らんや
故郷がどうして長安だけだろうか
いや そんなことはない
これは 白居易の
"香炉峰下、新卜山居草堂初成、偶題東壁"
の七言律詩。
彼が44歳の時、都から江州に
左遷された時に詠んだ詩。
片田舎の閑職について、することもなく
伸び伸びしていて楽だ。老後には
持ってこいだ!と強がり、
更に京だけが故郷だなんて誰が言った!と
強がるが、再び返り咲く彼。
かなり悔しかったんだなあ。
ところでこの詩のある部分…
そう…
「香炉峰の雪は 簾を掲げてみる」
清少納言の枕草子に出てきます。
この漢詩を踏まえたもの。
中宮定子さまとの雪見遊びのやり取りで
定子さま…
香炉峰の雪 いかならむ
(香炉峰の雪は どんな具合かしらあ?)
清少納言
香炉峰の雪は 簾を掲げてみる
(どれどれ 眺めてみよう)
と簾を上げて見せる…
あらまあ 清少納言さまは漢詩を
お勉強なさってるから、あんな風に
ユーモアで返されて凄いわあ!って拍手が起きる
いやいや、漢詩ってわかる時点で
みなさまご存知じゃん。って話。
しかし後々、中宮彰子さまに破れて
しまう定子さまの不憫さを思う。
つまり一つの派閥が破れて宮廷を追われる。
今の会社組織にもあるよね。
辛い。だからこそ効いてくる。
この雪見遊びのシーンも、精一杯の
強がりや憂さ晴らしと、後に思えば
なんだか違う趣き…。
清少納言は決して嫌味な女では無い。
そう思うのは古典の読みが浅いのだ。
紫式部もなかなかやりおる。
ウサギは…
いと おかしの
清少納言と中宮定子…
いと あはれの
紫式部と中宮彰子…
ほんとうは
逆だったかもしれない…と。
