メモリー | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ーメモリーー

梅雨寒でうっかり風邪を拗らせ
長引いた熱は
長らく忘れていた偏頭痛と
嫌な悪寒をまだ 残していて
どうにも気分は晴れぬまま
梅雨には梅雨の良さがあるのに…
過ごした異国の地の雨を
彷彿とさせる

リラの花は
雨に濡れ…
花盛りの季節が終わる 
花々は開き過ぎたその花弁から
雨の雫をしたたらせ
あの日 古い駅のホームで
迎えに来ないあなたを待って
レインコートの内側まで
すっかり雨の染み込んだ
濡れねずみのわたしみたいに
震えているようだ…

途中でこのオンボロクーパーの
エンジンが壊れちまったんだ
すまない…
わたしを抱き寄せながら言う
あなたに 恨みの言葉を言う
気力も無く
倒れ込んだあの日
ハイフィーバーは三日三晩…
四日目の朝は晴れていて

朝食にあなたは
あたたかなオートミールと
紅茶と…朝摘みの白薔薇を 
運んで来てくれた

目覚めなかったらどうしようかと
思ったよと
酷く心配した顔で…

だからわたしは言った
クーパーのせいにする…と
あなたは笑って…
額に手を当て
わたしの隣に一緒に横たわり
ずっと看病すると言った…

五日目には
庭を歩けるようになり…
六日目には
買い物に市場まで一緒に行った  
七日目には素敵なレストランで
食事をし
当たり前の生活に戻った…

今 ずっと看病すると言った
あなたの墓前に
花を供える

今度はクーパーのせいには
できないわ…と
呟きながら…

そしてまた
あなたはなんのせいにする?と
問うけど…
優しいあなただから
きっとなんのせいにもしないね…

ただ ごめんよ…
って言うだけだわ…
なんにも悪くないあなたが
わたしに謝るだけだ
わたしに謝る必要も無いのに…