貝塚 | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ー貝塚ー

君が もし
離れて沖へゆきたいのなら
わたしは浜で帰りを待って
君の野望の尽きる日を
日がな一日貝となり
星を数えて 言葉を忘れ
砂のまにまに 埋もれていよう

埋もれているのは
いいことだ
時の漣に洗われて
わたしは清浄を取り戻すだろう
君が歓喜や絶望を
くだらないほど繰り返す間に
わたしはどんどん 清らかになり
洗い澄まされた貝となり
君がふたたび 舞い戻る頃

浜には小さな塚ができよう

青い青い月の夜
潮が引いてしまった浜に
小さな小さな瑠璃の塚

君はその時気づくだろう
なにが一番大切なのか
なにを失い何を得て 人は
消えゆくものなのか

君の心にある七色は
虹の七色
瑠璃の七色
光の見せるほんの気まぐれ
手にすることなど出来ぬこと

わたしは 君と再会する
貝塚となり 再会する
君は墓碑に項垂れて 
声を殺して泣くだろう

離せば二度と同じ景色は
見られないのが世の定め
退屈しながら生きることの
取るに足りない安易さを
人は幸せと定義している

それでいい
それしか出来ない

大それた野望など
人の頭は関の山
高々知れた希望の限界

天女も神も仮初の世に
降りてはこない

だからわたしは貝塚になり
目には見えない何かになって
君に触れよう 君知らずとも

一度は君が捨て去った
愛をふたたび 囁いてあげよう

君聞かずとも 聞こえずとも
それがわたしの最大の
瑠璃の七色
虹の七色

気まぐれなんかで片ずけない
まごころからの 七色の色

ーうたー

刺激ある日々に愉快はあるものの
     まこと見失う目ぞ悲しけれ