戦士に休日はない | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの


ー戦士に休日はないー

日曜日なのに、込みあった駅。
なんでみんなこんなに活き活きと急いでいるのだろう。

老若男女問わず 休日はみんな元気だ。
どこかに 学生時代の休日の喜びを覚えているからかもしれない。

苦痛の日々があってこそ 休日はありがたい。
毎日が休みなのは返って苦痛。ご馳走はたまにだからご馳走だと思える…。

マリエはぼんやりそんなことを考え 今日自分がこれから行こうとしている先を考えた。病気の叔母の世話。休日返上。叔母の着替えの入った手提げ袋が急に重くなる。

途端 足に激痛が走った。

あら?すいません…

ベビーカーを押したママが 長い錆色の髪をなびかせ 付けまつげをパチクリさせて 驚いて しかし悪びれもせず言う。すいません…日本語間違ってる。すみませんだろ…マリエはふと思ったが…

あ、いえ…大丈夫です。

マリエは咄嗟に言った。何がだ?

ベビーカーは赤ちゃんを乗せたまま 過ぎさって行く。高いヒールの音を響かせ ミニスカートが揺れている。ツワモノだ。

まるで…戦場を征く戦車か装甲車のように無敵。
だけど赤ちゃんは天使みたい。神様は案外そうしたものかも知れない。護るべきものがあるものは強い?いや、勇ましい。

マリエのようにぼんやりしていたら きっと時と言う敵にあっと言う間に打ちとられる。
なんだか…祈りたい気分になった。

若さよ、永遠たれ!

電車に乗り込むと 見るとは無しに視界に入るいろいろな人たち。若い人の方が疲れて見えるのは何故だ?
社会というフィールドにまだ参加していない学生や、そのフィールドを勇退した人々の笑い声と椅子を占拠せしめんとする人々でごった返している。

椅子は開かない。

とうにその競争を諦めたマリエは 荷物を持つ手に力を込め痺れを逃した。

やっと降りたった病院のある駅は 人影まばら。
そこで、マリエはトイレに駆け込むと、鏡に向かい笑顔の練習をした。

まるで戦いの支度でもするみたいに。

さあ 休日を返上し、今日は1日病人の世話だ。
マリエの戦は今から始まる。

マリエは一人の戦士になり 白い砦に向かう。
病人を救護せよ!そう言い聞かせ。

たった今降下した 特殊部隊のように…。
もう…人並みは怖くない。鮮やかにすり抜ける。ベビーカーは死守する対象だ。安全に迅速に往来を渡せ。

救護 救出作戦は開始された。マリエの頭の中でサイレンが鳴る。

戦士は休日など知らない。速やかに平和を取り戻す為に。

でも いつになったら 平和になるんだろう?