終戦記念日に寄せて | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ー終戦記念日に寄せてー

この国が 初めて大声を上げて泣いた日に 沢山の命が失われ 先人の足跡は踏み荒らされた後だった。

もはや 若い世代は この国が何処と戦い 何処に勝利し 何処に敗退したのかさえ 知らない子も多いのに。

現にわたしも戦争を知らずに 生まれ  世は健やかで ずっとむかしからそうであったと思ってきた。

何が悪いとも誰が悪いとも 責めるのは辞めたい。
あの頃はきっと 世界そのものが ただ勝鬨を挙げることにのみ躍起になっていたのだ。何かに取り憑かれたように 戦ということのみに生涯を費やしたのだ。

戦争の果てにある勝利などあろうはずもなく、敗戦側にはいうまでも無い さらなる地獄が待っているというのに。

昨日 蝉の亡骸を涼しい木の陰にそっと置いた。数時間の後 同じ場所を通りすがれば 蟻たちは自然の摂理に従い 綺麗に跡形も無く蝉を運んでしまった。

忘れてはならない記憶と 忘れてしまうように仕組まれた神の御手は少しズレがあるようで わたしは覚えていなくてはならないことが 二度と無益な争いを侵すことが無いようにと 告げられた気がした。あまりに自然は見事ではないか。当たり前の生命の連鎖をきちりと守っている。

勝利者に真の恵みなど無い。命の土台の上に勝利は無い。あの暑い夏の日 みんな負けたのだ。
厳しく悲しい神の試練に 負けたのだ。神は荒療治を施して 人に何を教えようとしたのか?

それでもあれから長いこと時がたち、天国へ旅立った魂はいうだろう。仲良く暮らせと。分け合いなさいと。微笑みながらいうだろう。

失わなければわからない そのような事柄が あまりにこの世には多すぎて 生きているうちには 憎しみ悲しむことでしか 昇華できないと思うから。

未熟な大人のわたしはふと 不完全な自分を振り返り 戦争を知らないことへ感謝する。先人に感謝する。わたしはあなたの手のひらの上、愛だ平和だと長閑なことをつらつら話していられるのですと。

終戦間際 鉄が足りなくなり、兵器 武器 が作れなくなり、家財一切、寺の鐘まで鋳溶かされたという。住職は誰ひとり喜んで差し出そうはずも無く 陰で一目を偲んで涙したという。

鐘を鳴らそう。今 時を告げる美しい音色で。敵も味方も無く 平和で幸せであるように。
鐘とは本来 そのような役割だ。

1日の始まりと終わりに 感謝しつつ 今日も無事であったことを空の彼方で微笑む人にも 伝えてあげたい。もうあなたのような思いはさせはしない。

あなたの分も 懸命に生きる。

今日も 明日も ずっと…


⭐️もうすぐ終戦記念日です。今年はなぜかウサギもこれが気になって仕方ない。世の中が間違った方法を取らないよう 祈りたいと思います。

鳴兎     拝

空高く鐘の音色のそめゆかば
ひとつ屋なりと気づく青星