カンナ | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ーカンナー
わたしのカンナは 追憶も
今もいつでも線路際
燃え立つように咲いている

道沿いを紅く彩り乍ら…

あの日 
息もつかずに漕いだ
自転車のペダルは
軽かつた

わたしの頬は
日に焼けて 紅く染まつてしまつたけれど
それだけでも無いような気がして…

希望に踊る高鳴りは抑えることなど
できもせず
駅までの道を漕ぐだけ漕いだ

田舎の町に着く電車
降り立つ君を迎える為に
恐れを知らぬ少女の顔に
カンナは線路際の声援に見え
わたしはいつにも増して誇らしく
そして幸せだつたのだ

カンナ…神名火
鎮守の森に

カンナ…神奈備
鎮守の里に

形代 依代
人形だけの 古いわたしを
脱ぎ捨てさせよ…

わたしの耳に声が聞こえる
神よりも尊き君の声

待つていたかい?
待たせたね…

禁を破りし
愚かな巫女を神は怒るか憐れむか

少女はいつか女となりぬ
それを穢れと呼びたくば呼べ
鳴り止まぬ潮の高鳴りを
消す術は他に知りませぬ

蝉時雨降る林を抜けて
人恋うを知る
少女のわたしが柵を越えて空へ舞う
高らかと翼広げて舞い踊る

神に仕えし巫女たちがいつか
初めて人を慕う日は

カンナの花が燃えている
駅までの道を
哀しいまでに
紅蓮の赤を燃やしている

カンナ…神名火
少女を許せ

カンナ…神奈備
少女を護れ

いつか大人になる為に
いつか人となる為に