迷子少年と猶予世界 -2ページ目

迷子少年と猶予世界

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深夜零時、外、言葉の分からない人


「終わらない夢」







コンビニの中の時計をふと見ると、もうすぐ24時になろうという所だった。

「1080円です」
「時間が立つのは早いなぁン」
「……」

反応のない店員に金を渡して、お釣りとレジ袋を受け取る。
見た目は大学生くらいの、生意気そうな女だ。

「ふぅ~ん、今夜は蒸し暑いン……」
「ありがとうございましたー」

やる気の無さそうな挨拶を背に、左手の出口をくぐった。
ここでバイトしようかと思ってたけど、やーめた。


店を出ると、ムワッとした熱気が肌にまとわりついた。
クーラーで冷えきった汗が、またじんわりと溶けだしていく。
今夜はとんでもない熱帯夜だった。

「ふ~ン、ふ~ン……クーラーつけてきて良かったン~」

大量の汗でへばりついたシャツをパタパタしながら、交通量の多い道路沿いを歩く。
中心街はまだ、まばゆいくらいにネオンが輝いて人通りも多い。
それでも一つわき道にそれれば、一気に明かりは無くなって、別世界のような静けさに満ちていた。
だが、空を見上げればまだ東京は明るいし、蒸し暑い。

「……そういやこの辺だったな~、あの事件」

誰に言うでもなくそう呟いて、辺りをキョロキョロする。
人通りのない、電灯も申し訳程度の暗い道。

「そーそー、ニュースで映ったんだよ、おいらの近所」

すると、脇道の電柱の下に、花束や缶ジュースがたくさん供えられていた。
それをしばらくの間遠目に眺めて、

「まったく、ヤなことばっかだよぉ現実は」

理不尽な世の中に唾を吐いた。
あ~、今から風呂くそだりぃ~ン。
そうして正面に向き直ると、

(ぬぉっ!)

ビクッとした。
小学五年生くらいの女の子が、50m先の直線上に、暗がりの中立っていた。
顔はよく見えないが、長髪にフリルのワンピース、ミニスカートという格好で(私服だ)、ランドセルを背負っている。
……心なしか、ずっとこちらを見つめているように見える。

(こんな時間、しかもつい最近事件があったばっかりなんに……○○小の教育はどうなっとるんやぁ)

わりと真面目に憤慨しながら、ペッタペッタと歩いていく。
注意しようとしたわけじゃない。ただ帰り道がこっちなだけだ。
……だがまぁ、一応人目には社会人なので話しかけることにした。あわよくば、家に保護しようかとか妄想しながら。



「……ね、ネェ、どうしたン?迷子?
このへんは危ないんよ?知ってる?女の子の殺人事件」

顔が見えず、少し不気味な雰囲気を醸す少女にちょっと腰が引けたが、頑張った。
しかし返事はない。
全く微動だにせず、体だけこっちに向けてうつむいている。

「車に連れ込もうとして暴れたから、コンクリの欠片で頭を殴られたんだって。悲しい事件だよね。

…………。

……す、ストーカーとかロリコンとか危ないやつらが、キミみたいな子、狙ってるんだよン?怖くない?

…………。

……は、はやく帰った方がいいよン?送ってこうか?おうちどこ?ねぇ」

(……もう、言葉わかんないのかン?)

あまりに無反応なので俺は、しびれを切らして少女の顔を覗きこんだ。
ひざをかがめて手をつき、自販機の下を覗きこむように低く低く……

「ヒハァッ!?」

見ようとして俺は後ろに跳び跳ねた。
頭を打ち付けながらもそのまま後退りする。
少女はバッと顔を覆い体をそむけた。

「ひが……ひが……ッ!!」

俺は全身が恐怖で震えるのを感じながら、少女の顔を指差す。

(こ、この子は、まさか……!!)

すると少女は、恐る恐るといったように体をこっちに向けながら、顔から手のひらをのけた。


『助ケテ……寂シイヨ、怖イヨ、オ母サン……』


ヌチャア、と音がして、その小さな顔には、手のひらには、てらてらと月明かりを照り返す液体が塗りたくられていた。
誰にでも分かる。それは血ノリだった。

「はッ……ンはッ……!!」

過呼吸気味の俺の顔に、少女は赤い手のひらをすぅっ…と伸ばしてくる。


『遊ンデ……?』


「ンぎぁああアアア!?!?」

俺はバッタが跳ねたように飛び起きて駆け出した。
家の方向だけかろうじて認識して、後は一心不乱に体にムチ打って走った。

(おンも!)

何年ぶりに走るか分からない肉体は重量級で足が折れるかと思ったが、そんなことを後悔してる場合じゃない。
振り向けば「来るなアアア!!!」少女が離れず追いかけて来ているのだ。
俺足遅っ!とかこれが逆レ(ry とか考えているうちに、どんどん差を詰められてる気がするのは気のせいじゃない……!!


『待ッテ……』


あの子が事件の幽霊なのか?幽霊?じゃあ俺殺される……?よく分からないけどどうやるのか知らないけど殺される!!俺がキモオタだからロリコンだからなのか

『捕マエタ』
「ギャアアアア死ぬぅぅぅあああ!!!」

背中に小さな手のひらの感触……
この瞬間、俺の頭の中で何かがプッツン切れた。

「……ンのあああアアア!!!このまま死んでたまるかあああああ!!」

俺は腕を大きく振りかぶって振り返り、背中の少女へ……

少女へ……

……あれ?いない。


『ーーキャハハハハ』


声のしたほうを見ると、少女は後方5mくらいの所でなにやら俺を挑発していた。
血ノリのついた端正な顔を、ニコニコとさせて。

『鬼サンコチラー』

(あれ……?)

俺を殺そうとしてたんじゃないのか?
だけど、背中にはベッタリ血ノリの手形が……、
……もしかしてこれ、鬼ごっこのつもりで……?

「……へ?」

……なんだ、そうだったのか。
ただ、誰かと遊びたかっただけなんだ。
一人でずっとあの場所にいて、誰もいなくて寂しかったのか。

……可愛い幽霊じゃないか。

「ーーなんだよ、もう☆」

俺は、爽やか笑顔を作り直して、少女のもとへ駆け出した。

「紛らわしいことしやがって、おしおきしてやるぅ~!!」

『キャー!』

「あはははは、ふひひひひ、ぶふふふふ……ぐふ、へ、げほッ」

マタドールのマントよろしくパタパタはためくスカートを、俺はどこまでも追いかけた。

成長期の背丈にベストマッチなその赤いランドセルを、俺はどこまでも追いかけた。

サラサラと風を流れる綿毛のようなその黒髪を、俺はどこまでも……

スカッ。

「
   あれ?」

スカッ。スカッ。

「 あれれ」

突如風を切る、俺の足。
飛んでる?

「 アレ レ」

前を見る。
少女がいる。
少女は飛んでる。
川の上を。


ーー俺は、川の上を


『ドボーン♥』

落ちた。
ドボーン


ーーその後どうなったのかは、覚えていない。






『キャハハハ、んふ♥アハハハハ♥
ハハハはハ八はハ八ハ♥
死んじゃった♥お馬鹿な鬼さん♥
でも違った、ざんねん、ブタだった♥
本物の鬼さん、どーこだ♥』



月の隠れた闇の中に、少女の笑い声が響いていた。
いつまでも、いつまでも……。

















ーーだけど気が付いたら、俺は川の底じゃなくて、少女の前に飛び出していた。

『…………え……?』

『はぁ……はぁ……ぜぇ…………
 ッ、よくもやってくれたなン……』

血で染まった眼球をぐりぐりさせて、頭の潰れた大男がコンクリを這い上がる。
戦慄する少女の幽霊を前に、鼻息荒く舌なめずりをして、一言。


『鬼ごっこはまだ、終わってないぞン☆』

















『……ッておいら死んでるーッ!?』
『いま気付いたの!?』
『え?おいら川底で頭打ったよね?え?あれ、死んでない?』
『いや、お兄さん、死んでるよ?ほらあそこ』
『……ん?
おほぉー!!?おいら死んでるーッ!?』

川を見ると、ダムのような巨体が水をせき止めながら横たわっていた。

『それ二回目だから!どうしてここにいるの?』
『おいらは、ただ鬼ごっこしようと思って』
『鬼ごっこはもう終わったでしょ!お兄さん死んだんだから』
『……ほんとに死んだ?おいら』
『そう!わたしが殺したの』
『いやチミのせいじゃないよ』
『わたしがお兄さんをはめたの!!』
『あ、そうなの?ふ~ン……

……まぁそんなことはどうでもいいや』
『いいの!?』

ガーン、といったテンプレなポーズで驚く少女。……あ、ネットでも見たけどやっぱり好みだ。

『だっておいら、三次元嫌いだったし、これって今二次元にいるってことでしょ?』
『さ、さぁ……』
『飲まず食わずで、働かなくても幼女と鬼ごっこナニごっこし放題……』

カキーン!
(ホコォ!?)

『お兄さん、今すぐ死んで』
『よ、幼女の金的(ピクピク』

意外とSな幽霊ちゃんでした。


ーーその後、川で30歳無職の男が死体で発見されて以降、その近辺では夜な夜な、少女と男が楽しく鬼ごっこをする声が聞かれるようになりました。
ついでに、ストーカーや誘拐事件もピタリとなくなりましたとさ。

『お兄さん、あの人お兄さんと同じにおいがする』
『おいらはまだ予備軍です!』


おわり




Written by miQuo