医学界は近年、腰痛の病態把握を「生物学的損傷」から「生物心理社会的疼痛症候群」へと大きく舵を切った。このパラダイムシフトで船頭役を務めたのが、世界に先駆けて「イエローフラッグ」という概念を提唱した本書である。急性腰痛に対する最善のアプローチとは? 腰痛を慢性化させる心理社会的危険因子とは? はたして慢性腰痛は予防できるのか? 医療従事者はもとより、腰痛患者とその家族、腰痛持ちの従業員を抱える事業主必読の書。
ニュージーランドには独特の傷害補償制度がある。労働災害、交通事故、医療事故はいうにおよばず、スポーツや日曜大工などで負った傷害に対して、政府系補償機関であるACC(事故補償公団)がその医療費、通院費、休職期間中の所得などを幅広くカバーしてくれる。特筆すべきは、そのACCが本書を編纂したという点だろう。すなわち、腰痛患者が増えれば増えるほど、あるいは腰痛の回復が遅ければ遅いほど、国民の血税がつぎ込まれるため、一日も早く腰痛を回復させて社会復帰してもらわなければ、補償制度そのものが崩壊の危機に瀕してしまう。慢性腰痛でドクターショッピングなどされてはたまらない。意気込みがまるで違うのだ!
根拠に基づく新たな腰痛概念、すなわち「生物・心理・社会的疼痛症候群」という観点で書かれた本の有効性に注目が集まっています。最新の腰痛診療ガイドラインでも「根拠に基づく腰痛情報を提供し、活動性を維持するようアドバイスするとともに、有効なセルフケア対策について指導すべき」として読書療法を強く推奨しています。
事実、慢性腰痛を対象に読書療法の効果を長期間にわたって追跡した結果、読了後1週間で52%の患者が改善しただけでなく、9ヶ月後、18ヶ月後もさらに腰痛が改善し続けたという報告もあります。
すべての治療法を試してみるほど人は長生きできません。腰痛疾患でお悩みの方は有効性の確認された治療法で一日も早く治してしまいましょう。医療関係者の方はプロの義務として最新の知見をアップデートし、子孫に負の遺産を残さないためにも根拠に基づく情報の拡散にご協力ください。