雪だるま 124
風鈴に大きな月のかかりけり 高濱 虚子
わが家の都はるみが、あらたたまって、ぼくに言った。
長いことお世話になりました。本日をもってこの家を出ます。
つきましては、長男は残していきますが、長女は私と一緒に
行かせてください。と云って頭を下げた。
藪から坊にこんなことを言われても、ハイそうですかとも言え
ず、はなはだ困惑をした。
思い返してみれば、自分勝手な亭主だった。優しい言葉もか
けてやった記憶もない。
なぜなんだ?ぼくは、ばかみたいにそう言った。
理由は訊かないでください。とにかく、この家から出たいんです。
このままこの家で暮らしていると、わたはダメになってしまいます。
まだやり直せると思うんです。わたしの我儘を許してください。
妻は言葉を詰まらせた。
それからしばらくして、妻と長女は家を去った。
のこされた、ぼくと長男はうろたえた。
おとうさん、どうするんだよ。
どうするって、どうもしないよ。おまえと二人で生きていくだけさ。
長男が泣き出した。ぼくも泣きたいと思った。
あなたどうしたの。おきてよ、起きて。
妻の言葉で目が覚めた。
どうしたのよ。随分うなされていたわよ。悪い夢でも見たのね。