門松 78
四方山の雲をしじまに田草取 森 澄雄
現下、よんどころない事情があって、いくばくかの塊の現金を
保持しなければならない羽目に陥ってしまった。その事情をこ
こに書くわけにはいかないが、なにも盗んできたお金ではない。
ぶっちゃけて言えば、あまりの金利のやすさにあきれはてた結
果なのであるが、はたして困った。現金を持ち歩くのがこれほど
困難であるとは思わなかった。家に於いているのも安心できな
い。火災にあうかもしれない。かと言って車のトランクに入れて
いるのも危険である。高価なバイオリンを車に於いていて、盗
難された例もある。鍵を開けるのは、さほど難しいことではない
らしい。腹巻に入れてみたこともあったが、腹の辺りが膨れ上が
り醜悪なことこの上ない。万策尽きた。やはり銀行に預けなけれ
ばならぬのか。
以前、竹中労の美空ひばり論を読んだとき、美空ひばりの母
親は、銀行を信用せず、お金を甕に入れて庭に埋めていた、と
書いてあった。その志や諒とする。しかれども、なんたる悪夢。
お手伝いさんに盗まれたと言う。こうゆうこともあるんだ。
かくなるうえは、面白くはないが、金融機関に預けるしか術は
ないのか。いやはや慙愧に耐えない。心ここにあらざれば、見え
ども見えず、聞えども聞えず。いっそ焼き芋でも買うか。