_ 春と修羅 288
変な癖がついたもんだ。ほかでもない車の中の読書で
ある。
ぼくは19歳に車の免許証をとって以来、長い間ペイパ
ードライバーだった。仕事上車に乗らなくてもよかったのと、
ぼく自身、車に対する興味が全くなかったかれである。
仕事の必要上、車に乗り出して随分になるが、いまだに
車は便利だが好きになれないし、動いたらいい派である。
ぼくの車の中は、座れるのは運転手のぼくの席だけで
助手席も、後ろの席は資料とか毛布、ティシュ箱、情報誌、
助手席は14~15冊の本があり、さながら車中は読書室で
ある。大杉栄は刑務所が学校だったらしいが、ぼくも車中が
学校といえなくもない。先生が本で生徒はぼくである。質問を
しても答えてくれぬが、自問自答というわけだ。
正当な学習場ではないかもしれない。しせいも悪くなる。
でも椅子に座り、机に向かって勉強するのは苦手だ。げん
にぼくの部屋には、ベットの横に机も椅子もあるが、使った
記憶が全くない。癖というのだろうか、狭い車中が読書のベ
ストの場とは、なんとも奇妙な習性といわざるを得ない。