_ 阿弥陀仏と菫 263
自慢するわけではない。ただ事実を申し上げるのみで
あるが、ぼくは村上春樹の処女出版である風の歌を聴け
の初版本を持っている。当時、本好きのぼくでさえ村上春
樹の名はしらなかった。ただ本のタイトルが気になって本屋
の書棚から取り出し、ぺらぺらとページをめくり、斜め読みを
しているうちに、なんとも不思議な印象を感じ買った。それ以
来、羊をめぐる冒険、世界の終わりとハードボイルド・ワンダ
ーランドなど、それぞれ初版を買って読んだが、ノルウェーの
森を最後にして止めた。つまらなくなったのではない。いよい
よますます興味は尽きないが、ここらで止めようと思っただけ
だ。訳などない。
こうして沢山の作家の仕事で、学ばしてもらったり、楽しま
して貰った。だが一人として全作品に眼を通した作家はいな
い。まだら読みに終始している。これでいいのだと思ってい
る。ぼくは研究者でも、プロの批評家でもない。好きなときに、
好きな本を読んで楽しめればいいと思う。強制や義務で読書
をするのはまっぴらである。