_ 四字と熟語 189
以前にも書いたと思うが、書くことがないので再び書
くことにする。これは、ぼくの判断なので誰にも止められ
ぬ。いやなお方はパスしてほしい。
話というのは、三島由紀夫氏のことである。彼の代
表作に仮面の告白、という傑作がある。冒頭に夙に有
名な、主人公つまり平岡公威とおもわれる出産の描写
があり、ひりだされた瞬間、タライがお湯で光る記憶が
描かれているが、にわかには信じがたいが、才人三島
氏ならばさもありなん、という感慨におそわれなくもない
が、氏の父君・平岡梓氏の御本によると、一笑に付して
いる。
ことほどさように、人間の記憶をどれほどたどれるか
という疑念が、ぼくのなかにある。凡人たるぼくの記憶な
ど披瀝する価値などないが、他人のことはわからないの
で書くが、明白な記憶は4~5歳はわりとはっきりしてい
る。その以前となると、昔のトーキーとよばれたフイルム
のきれきれがあるだけで、母の背中に負われたときの冷
たさや、お祭りの神社の提灯の明かりなど、とりとめのな
い断片ばかりだ。三島氏もタライのほかに何かを見たの
ではないのではないか。ぼくはそれを知りたい。