たまちゃん 20
ずいぶん昔になるが、ある本に衝撃を受けたことがあ
る。それは倉橋由美子のパルタイと言う本だった。真っ黒
い本で、ただタイトルに赤い字でパルタイと書かれている
不気味な本だった。
この本を買ったのは、早稲田の佐藤書店である。古本
屋である。ぼくがこの本を見つけたときの喜びは今でもよ
く覚えている。そしてなんどもなんども読んだ。なんだか突
き放したようなサメタ文体だが、そのころのぼくの精神に
フィットしたのか、ぼくは飢えた獣のように倉橋由美子の本
を求め探した。
そのころは倉橋由美子はもとより、吉本隆明、埴谷雄高
などの本は、今では信じられぬことであるが、紀伊国屋など
の大手の本屋にはおいていなかった。もっぱらその手の本
は古本屋でしか探すしかなかったのだ。したがって神田、早
稲田はもとより、大阪、京都まで探し求めた。今から思えば
なんと情熱的なことであったことであろうか。それほど知的な
ものに飢えていたのである。現在そのような気持ちがあるや
否やを、忖度すれど、はなはだ忸怩たるものを感じざるを得
ない。
今は、嘗てのような飢餓めいた知識欲はなけれども、の
ほほんと読書を楽しんでいるのである。これでいいと思って
いる。