流転と啓示 26
経済学が科学として発達できたのは、偏にワルラ
スのおかげである。だが、ワルラスの一般均衡理論
を継承し。これを完成させて経済学を本当の意味で
科学にしたのは英国の経済学者、ジョン・リチャード
・ヒックスである。
ヒックスの主著「価値と資本」に依って経済学は初
めて科学的な分析のツールを手にし、精密な科学と
しての第一歩を踏み出したのである。確かに「価値と
資本」の登場に依って、ヒックス以前の経済理論はみ
な旧式になってしまった。
ヒックス以前の学会には、経済学の基盤となる価
格決定の理論として、客観価値論と主観価値論の
二つがあった。投下された労働時間に依ってモノの
価値を測る労働価値説は、前者の代表例。モノから
得る利便・満足といった人間心理に依って価値を説
明する限界効用理論は後者にあたる。
数理的手法を用いて複雑な経済現象を説明したワ
ルラスの功績は、確かに大きい。だが、ワルラスはこ
の限界効用理論を基盤とし、効用は測定できるという
仮定に基づいて、一般均衡理論を展開していた。
ヒックスの功績は、パレートが導入した限界代替率の
概念を発展させ、限界効用という測定不能な人間心理
を理論体系から駆逐した処にある。限界代替率とは、簡
単に言えば財Aを一単位減らした時、減らす前と同じ満
足を得るために必要となる財Bの量だ。二財の価格の比
率から導かれる限界代替率を理論基盤とする事に依って、
不可測性を解消したのである。 つづく