快楽と独楽 16
嫉妬について少し言わせてください。この忌ま
わしい感情の学究的考察は、フロイトなり、ユン
グなり、岸田秀なりの本を読めばたやすく答が
手にはいる。しかし、読んだからといってこの感
情から自由になれるわけでもない。この感情は
人間特有のものではなく、動物を飼っている人
はよくご存じであろうが、犬猫も嫉妬をする。こ
れはどの辺の生物にまでこの感情があるかは、
その方面の知識がない。まさかゴキブリにこん
な高級な感情があるとは仄聞にして聞かぬが、
あれであんがいやきもちやきかもしれない。
こんな男がいた。男は恋をしたらしいのだ。
やるじゃないか。ぼくはおおいにほめてやった。
いつかはやる男だと思っていた。はたせるか
な男は乙女と付き合いだしたのだ。ぼくは遠く
から男の様子を見守り、いまかいまかと吉報
を待っていたのだ。ところが悲劇は突然やって
きた。男に告げ口する奴がいて、女が妻子持
ちの上司と付き合っている、と耳打ちしたんだ。
女が二股かけてやがったんだ。ショツクと嫉妬
苦しむ男を酒にさそい、ぼくは激励してやった。
「なんだそんなことでめそめそするな。さあ、グ
ッとのめ、そんなことでくよくよするな。おふるで
もよく洗ってつかえばおなじじゃないかーー」
と、言うとなぜか男は号泣をはじめた。
こまったやつだ。ぼくなんていっも古本だ。